fc2ブログ

スポンサーサイト

.-- -- スポンサー広告 comment(-) trackback(-)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

022 【北伐】営口市の掃討戦

.01 2009 納品物(Catch The Sky ~地球SOS~) comment(0) trackback(0)
本リプレイの公開は、株式会社テラネッツの承認を得ております。
 又、本リプレイの著作権は『水無瀬 要』に帰属しており、知的財産権等は株式会社テラネッツに帰属します。
 本リプレイの一部もしくは全ての転載、複写、翻訳、他サイトへの配信等は禁止させて頂きます。
 (C)Terranetz Co.,Ltd. All rights reserved.

■作者より
 テラネッツでのMS業務最後のシナリオです。
 都合による大幅な遅刻によって代筆を予定されておりましたが……運営のご厚意で、どうにか自身の手で幕を引く事が出来ました。

●現在の参加PC一覧
三島玲奈(ga3848)・スナ
ゲシュペンスト(ga5579)・グラ
上条・瑠姫(gb4798)・ドラ
孫六 兼元(gb5331)・ダー
瀬上 結月(gb8413)・フェ
ゼンラー(gb8572)・サイ
夢守 ルキア(gb9436)・スト
守部 結衣(gb9490)・スト

●オープニング本文

<中国遼寧省・営口市内>
「おい、司令部は何と言って来てるんだ!?」
 UPC戦略軍第23歩兵小隊のミラー軍曹は、今回も隊員達を率いてキメラ掃討の任務に就いていた。
 この小隊は、前回のシェイド討伐戦に於いて御津川 千奈(gz0179)と9名の勇敢なる傭兵達によって、死地より救われた事があった。
 対キメラ戦闘の専門部隊として常に最前線に出て戦う為、隊員の人的損耗率は非常に高かった。
 特に将校の戦死者が最も多く、今回新たに配属された小隊長も、僅か3ヶ月で二階級特進の栄誉を授かる事となった‥‥。
 そして現在、隊内で最も最上位の階級であり、最古参でもあるミラー軍曹が、再び小隊の指揮を執っていた。
「はっ、現在対応策を検討中なので、もう暫く待て――との事です」
「ちっ! 今回は中佐も出張って来てるらしいから期待したんだがな‥‥」
「ぐぁっ!」
 隊員の一人が大型キメラ『ケルベロス』に薙ぎ払われ、壁に叩き付けられた。
「てめぇ! よくもやりやがったな!」
 軍曹はショートバレル化して携帯性を上げた対戦車ライフルを、ケルベロス目掛けて撃ち放った!
 多少は効いているようにも見えるが、やはり1発では敵のフォースフィールドを貫通させるには至らない。
「いいか! 一点集中で仕留めるぞ! 俺の撃った目標だけを狙え。他の奴には目もくれるな」
『イエッサー!』
 今回も生き残った隊員達は多くない。しかし彼らは、生き残って大切な家族や友人との再会を果たす為に、気力を振り絞って強敵に挑み続ける。
(「こっちは何とかして支えますから、頼みますよ中佐‥‥」)

<瀋陽方面軍・作戦司令部内>
「まったく厄介な状況だぜ」
 UPC戦略軍のリチャード・ジョーダン中佐は、戦う前から疲弊の色を見せている部下達の様子を見ながら悔しげに言う。
 グレプカの第1撃を受けて以降、瀋陽方面のUPC軍は部隊を散開させて待機している。
 グレプカによって一撃で多くの被害がでることを避ける為だ。
 しかし、能力者のようにSES兵装を十分に使いこなすことができない一般兵の部隊では、キメラを含めて対バグア戦術は大火力の集中運用による飽和攻撃が基本となっている。
 その為に、現在のように部隊が細切れになった状況ではバグア対応能力を大きく減じていると言える。
 遼東半島を解放し、勢力圏においたとはいえ、現状では徘徊するキメラなどの敵を駆逐しきれていない。そうしたキメラの散発的な襲撃は多くのUPC将兵に無用の消耗を課していた。
「中佐、第23歩兵小隊より、引き続き援軍要請です」
「あぁ分かってる‥‥これ以上キメラに振り回されて、大事な部下達を失って堪るかってんだ。ULTを通じて各方面に傭兵を護衛に回してくれ。細かいキメラのゲリラ戦法にゃ、機動力のある傭兵のほうが火消し役に適してるんだ」
 かくて、ジョーダン中佐の上申により、ULTに傭兵向けの依頼が出されるのである。

●リプレイ本文

●陰謀の影
<中米・バグア占領地域内某所>
 現在、中国で激戦を繰り広げるバグア軍とUPC軍であるが、その影で密かに暗躍する者達がいた。
「営口市での戦況は順調ですか?」
「はい。この作戦が上手くいけば、心身共に屈強な強化人間の素材が手に入りますね」
 白衣を着た若い研究員が、痩身の男に答える。
 ここで言う『作戦』とは、彼らを極限状態にまで追い詰めて、生き残った者だけを素材として持ち帰ろうと言う事である。
「ふむ」
 若い研究員は立礼の後、配置に戻った。
 痩身の男は、この強化人間製造所――通称『ラボ』の主任であった。
 彼はエステル・カートライト(gz0198)という手駒を失い、新たな強化人間の素材を欲していた。
(「エステルは死亡し、部下の黒き炎は脱走後に行方不明‥‥。私の手駒となるべき者達は次々といなくなる‥‥」)
 主任は苦虫を潰したような顔を一瞬した後、側のベテラン研究員に新たな指示を出した。
「例の件の隠蔽工作は、大丈夫ですね?」
「あ‥‥はい、大丈夫です」
「よろしい。あれが露見しては、こちらの命に関わりますからね」
 例の件とは、アイザック・ソマーズ中尉の脱出装置に、何者かが細工をした疑いについてである。
 中尉は、この男の野心を知る唯一の男であったので、口封じの為に始末されたのだ。
(「私はもっと上を目指さなければならない。その為にはもっと忠実な駒が必要なのだ」)

<中国遼寧省・営口市内>
 舞台は主戦場へと移り――UPCの歩兵部隊救援の命令を受けた傭兵達は、指定されたポイントへと急行していた。
「そろそろ見えて来ても良い筈なのだがねぃ‥‥」
 ヘルヘブン750で先行するゼンラー(gb8572)は、そう呟きながらレーダーと目視による索敵を行っていた。
「別に隠密行動ではないし、無線で発光信号上げてもらうのも手だね」
 三島玲奈(ga3848)の提案によって第23歩兵部隊に増援部隊到着の報を入れ、信号弾を打ち上げて貰う事となる。目印となる対象が歩兵にキメラと小さい上に、市街地で障害物も多い為に発見が難しいのだ。
「来ました、10時の方向」
 上条・瑠姫(gb4798)が信号弾を確認。
「さて、ド派手に暴れるか! と言いたい所だが‥‥まだ傷が癒えておらんからのぅ。ワシは後方から援護に回ろうかのぅ」
 孫六 兼元(gb5331)は、間の悪い事に負傷したままの出撃となってしまった。
「まあ気にしなさんな。傭兵稼業じゃよくある事さ」
 ゲシュペンスト(ga5579)が、さりげなく戦友をフォローする。
「その分、後ろは任せたぜ」
「おう、任せとけ! ガハハハ」

 目的地を目の前にして、3体のケルベロスが一行を出迎える。
「サチヨ、私の言う事をちゃんと聞くんだぞ。‥‥さぁ、蔵を開けるんだ」
 瀬上 結月(gb8413)が愛機シュテルンのセイフティロックを解除する。
「側面攻撃班だけど、一番槍頂戴する!」
 ショルダーキャノンをキメラの手前に着弾させて、目くらましと牽制を行った後、擦れ違い様に零距離からブリューナクを撃ち込む!
 左右のケルベロスには、2機のヘルヘブンが応戦。
 ゼンラーは20mm高性能バルカンを斉射し、夢守 ルキア(gb9436)はガトリング砲をそれぞれ撃ち込み、瀬上同様に擦れ違い様にアスクレピオスとKVハンマーでケルベロスの脳天を割って先を急いだ。
「生身だと苦労するケルベロスも、KVだとあっけなかったね」
 と夢守。
「‥‥これが、戦場、なのですか‥‥」
 今回初陣を飾る守部 結衣(gb9490)は、キメラとの実戦を目の当りにして息を呑んだ。
「空戦訓練は受けましたが、陸戦での実戦になるとは思いませんでした」
「なあにワシらがついとるから心配は無用だ。ガハハハ!」
「はい、よろしくお願いします」

 現地に到着した一行に歩兵部隊より無線が入った。
「傭兵諸君、救援感謝する。この部隊の指揮を任されているミラーだ」
「よぉ、ミラー軍曹じゃないか。シェイド討伐戦以来だな。また厄介な事になってるな」
 ゲシュンペストが開口一番、ミラー軍曹に挨拶をした。
「おう、あの時の傭兵か。いつぞやは世話になったな。すまんが今回も世話になる」
「お話中失礼します」
 ガトリング砲でキメラを牽制しながら上条が割って入る。
「時間がないので手短に要点のみ申し上げます。私達は今後の増援の可能性を危惧しております。戦闘は彼ら傭兵に任せ、私と共にその戦力を発見しては頂けないでしょうか」
「君達の上司から依頼を請けたんだ。まさか無碍には扱わないよね?」
 夢守が更に念押しする。ミラー軍曹は結構頑固な面もあると資料の中にあったので、上官命令である事を明言しておく必要もあった。
「‥‥了解した。正直な所‥‥部下の大半を失っているので、今回はその方が助かる」
「よし、ここは上条ちゃんに任せて、作戦通りに行こうかのぅ」
「武甕槌神の加護があらんことを!」

●正面攻撃班の戦闘
 第23歩兵部隊は、傭兵達の作戦に合わせて隊を分散させ、ミラー軍曹と通信兵、2名の護衛兵の計5名だけがここに残り、残りは周囲の索敵を行うべく散開して行った。
「ヒドラとケルベロスって、親子かな?」
 ディフェンダーで襲って来たケルベロスを斬り飛ばして、三島は突然変な事を口走った。
「ん? そんな訳、ないだろ」
 ケルベロスに足元を噛まれて引き剥がすのに忙しいゲシュンペストが、力みながら答える。
「いや。本当の親子じゃなくて、命令系統の上下関係の事」
「なるほど、三島氏の考えも尤もな意見だ」
 練機刀「月光」で、ゲシュンペストに群がるキメラ群を一閃して払いのけながら、孫六も同意した。
「菌糸の様なもので繋がってるのかも」
「ガハハハ、それは良い。だがキメラはキノコじゃないからの、他の手段で連絡を取っているやも知れんな」
「孫六さん、すまない」
 群がるキメラ群をようやく引き剥がしたゲシュンペストが、孫六に礼を言う。
 流石に正面ともなるとキメラの数も多い。確認出来ただけでもケルンべロスが7体とヒドラが1体。
「数が報告よりも少ないな」
「元々伏兵を考慮に入れてるから問題ないない。その為の三包囲殲滅作戦だ」
 銃器で狙い撃ちながら、ゲシュンペストの疑問に三島が答えた。
 傷付いたケルベロスが再びゲシュンペストに噛み付こうと身構える。
「これ以上好きにはさせないぜ」
 ディフェンダーでケルベロスを薙ぎ払い、敵が跳躍で避けた所を返し斬りで仕留める。

 ヒドラと対していた孫六は、剣で受けつつレーザーバルカンで応戦していた。接近戦では負傷した傷が痛む為、今一歩踏み込みが甘くなる。
「盾を持ってくるべきだったかの」
 レーザーバルカンでヒドラの首を何本か吹き飛ばした孫六は、ゲシュンペストに連絡を入れる。
「すまんが止めを頼む!」
「頼まれた! いけ、究極! ゲシュペンストキィィィィック!」
 レッグドリルによるキックが炸裂し、ヒドラは断末魔をあげて死亡した。

 ヒドラの死亡を見届けた三島は、ケルベロスの様子を注意深く観察する。
 ――が、特に動きに変化は見受けられない。
「‥‥気のせいか。まあいい」
 そうと分かれば躊躇は無かった。三島は二丁のスナイパーライフルとレーザーガトリング砲でケルベロスを一気に畳み掛ける。
 瓦礫や建物を粉砕し、着弾地点から砂塵が舞いあがり視界が悪くなる。
 だがレーダーでは捉えられているので、着弾点をずらす事で砂塵の流れをコントロールする。
「見切った!」
 砂塵の中から現れたケルベロスに、ディフェンダーを叩き付ける!
 元来KVの装甲を断ち切る剣である為生身には今一つの切れ味であり、ケルベロスは文字通り撲殺されて、派手に血飛沫を飛ばしながら歪に潰れた。
 更に超伝導アクチェータも起動して勝負に出る。
「次々いくよ!」

●側面攻撃班1‐1
 一方、側面攻撃の為に途中から分かれたゼンラーと瀬上は、周囲を警戒しながら怪しい場所の索敵も行っていた。
「瓦礫の下に何か潜んでいそうだな。‥‥人も居ないし、撃っておくか」
 瀬上は周囲の瓦礫を撃って回る。
 こちらの方面に来た歩兵部隊の協力により、KVでは見過ごしてしまうような場所もカバーされ、索敵は順調に進んでいた。
「こちら側には敵の伏兵はいないようだねぃ」
「油断は禁物ですが、恐らく問題ないでしょう」
 瀬上も同意した。
「私は見晴らしの良い場所で砲撃準備をしますので、ゼンラーさんは警戒をお願いします」
「おお、了解だねぃ」
 2機のKVの動きを捉える怪しい双眸が、建物のの瓦礫の中で光っていた――。

●側面攻撃班2‐1
「きゃあ!」
 守部のバイパーがバランスを崩して倒れる。
 ゼンラー、瀬上班が外れを引いた分、こちらに残りの戦力が全て投入されていた。
「結衣君、前衛は私に任せて」
 夢守はガトリングナックルで守部に取り付こうとするケルベロスを威嚇し、注意が向いた所をKVハンマーで攻撃を加える。
「今だよ、態勢を整えて」
 守部は倒れた機体を起こし、量産型機槍「宇部ノ守」を振り回してキメラ達を寄せ付けない様にする。
 こちらの敵戦力はケルベロスが5体とヒドラが2体。KVとは言え、2機では少々厳しい戦闘となりそうでだ。
「ケルベロス鍋を食べるまでは死ねないからね」
 もしおいしかったら、本部食堂のメニューに加えてもらう野望を胸に、夢守はキメラ群目掛けてガトリング砲を掃射した。

●伏兵1
 瀬上の砲撃が加わった事で正面攻撃班の戦力は倍増し、更に2体のケルベロスを葬り去る。
「残り3体ですね‥‥」
 上条は、敵キメラの残存を確認して長距離バルカンで孫六をバックアップする。
「夢守氏の方が苦戦しているらしいから、早めに倒して援護に回ろうかのぅ」
「それはこちらで行こうかねぃ」
 ゼンラーが通信に割ってはいる。
「可能なら頼む」
 孫六が援護を依頼しようとしたその時!
「ぐっ!」
 突如機体が被弾し、ゼンラーの機体が大きく揺れた。
「どうした!?」
「ワームが出て来たよぅ。やはり伏兵がいたみたいねぃ」

●側面攻撃班1‐2
 ゼンラーと瀬上を襲ったのは1体のレックスキャノンであった。
 穴を掘って機体を隠し、更に上から瓦礫を被せて偽装していたので発見が難しく、歩兵部隊も地中の索敵までは行っていなかった。
 瀬上もすぐさま応戦準備の為、向きを変える。
「よくもやってくれたねぃ。行くよぅ! 『さきがけ』、出る!」
 ゼンラーが機杖「アスクレピオス」でワームを迎えうつ。
 跳躍して避けた所を、瀬上が電磁加速砲「ブリューナク」で狙い撃つ。
「ナイス! 瀬上さんっ!」
 被弾して落ちたワームはすぐさま跳ね起きたが、近接武器の射程内に捕らえられていたので、ゼンラーの杖と剣の連撃の餌食となった。
 咆哮をあげて退き距離を取ったワームは、砲撃戦に持ち込もうとする。
「砲撃戦はこちらも得意なんでね」
 ゼンラーを狙ったワームに、行動力全消費でショルダーキャノンとブリューナクのWバーストをお見舞いする。
 よろけて狙いの逸れたワームの砲撃は、明後日の方向に放たれた。
「1機で2機を相手にしても無理があるねぃ」
 無人のレックスキャノンはスパークワイヤーで絡み取られ、ハイ・ディフェンダーで首を落とされ沈黙した。
「こちら瀬上、伏兵は片付けた」

●側面攻撃班2‐1
 夢守の放ったハンマーで、ぐしゃりとケルベロスが潰れて周囲に肉片と血飛沫を撒き散らす。
 KVハンマーは、既にキメラの血肉でべったり紅く彩られていた。
「ガドリング掃射。夢守機左右確保。今です」
 守部も戦闘に慣れて来たのか、いつもの平静を取り戻して夢守を支援する。
 ヘビーガトリング砲の掃射によって、ヒドラの1体が蜂の巣になって吹き飛んだ。
「‥‥ARインターフェース展開。歩兵部隊の損耗度検索‥‥把握。敵情報確認。判明している敵情報を送信します。確認を」
 更に索敵に向った歩兵部隊の状況把握も行っており、分かる範囲の情報を各機に提供していた。
「何とかなりそうだね」
 二人の奮戦によって、残りのキメラはあと1体となっていた。
「‥‥敵ケルベロス捕捉‥‥来ます」
「これで終わりだよ」
 守部のガトリングが火を噴き、弾け飛んだ所へハンマーが打ち下ろされる――!

●伏兵2
「さすが傭兵だな。こうもあっさりと片付けちまうとは‥‥恐れ入った」
 ――ポタ。
 雨でもないのに液体が一滴落ちて来て、護衛の兵士が上を見て『それ』に気付く。
「軍曹! 上を!」
 兵士が銃を構えるよりも早く、『それ』は軍曹に襲い掛かった!
「――ぐふ!」
 『それ』は小型の虎の様な外見をした1匹のナイフプチャットであった。これも伏兵なのであろう。
「うわぁぁぁぁ!」
「よくも軍曹を!」
 二人の護衛兵は、それぞれ奇声をあげてナイフプチャットに銃を発射した。

 側にいて一部始終を見ていた上条は、素早く洋弓「アルファル」を持ってKVを降りた。
 小型キメラにKVでの対応は難しく、軍曹の手当ても必要と判断したのだ。
 上条は、覚醒してKVから一気に飛び降り、竜の翼で一気に接近――! アルファルでキメラの側面を射抜く。
『グァァァォ!』
 ノックバックでよろめくキメラに、護衛兵士達が銃弾を浴びせる。
 キメラが弾圧で起き上がれない隙に、上条が止めの矢を放ち、ようやくナイフプチャットは絶命した。

「大丈夫ですか?」
 上条は軍の救急セットを借りて、そのまま軍曹の手当てを行っていた。
「見っとも無い所を見られちまったな」
 軍曹は頭を掻いて照れ笑いする。
「‥‥私には、関東陥落時に行方不明になった従兄がいます」
「‥‥」
「戦争でこれ以上、私が関わった人が傷付くのは見ていられません」
 軍曹は黙ってそれを聞き、何も言わず上条の頭をそっと撫でた。

 正面のキメラは、ゲシュンペストの放ったキックと三島の獅子奮迅の活躍により全て掃討された。
 そして周囲の索敵に赴いていた歩兵によって、指令を出していたと思われる怪しい人物の拘束に成功。この人物の持っていた装置でキメラを操っていた事が判明した。


●陰謀の終局
「ぐふっ!」
 痩身の男は、胸を押さえて蹲る。
 胸からは夥しい量の血が流れ出ていた。
「上からの命令でしてね。貴方の野心と中尉殺害の件は、既に上にバレています」
「馬鹿な‥‥」
「私は貴方の部下ですが、それ以上にバグアの忠実な僕でもあります」
「くっ、裏切ったな‥‥」
 研究員を憤怒の形相で睨みつけながら、痩身の男は息絶えた。

 一人の野心家の夢は水泡に帰したが、未だバグアと人類の戦いは、いつ果てる事無く続いている。
 勝つのは人類か、それともバグアか? その結末は、まだ誰も知らない‥‥。
スポンサーサイト



021 【北伐】漆黒の翼再び

.01 2009 納品物(Catch The Sky ~地球SOS~) comment(0) trackback(0)
本リプレイの公開は、株式会社テラネッツの承認を得ております。
 又、本リプレイの著作権は『水無瀬 要』に帰属しており、知的財産権等は株式会社テラネッツに帰属します。
 本リプレイの一部もしくは全ての転載、複写、翻訳、他サイトへの配信等は禁止させて頂きます。
 (C)Terranetz Co.,Ltd. All rights reserved.

●参加者一覧
 藤田あやこ(ga0204)
 須佐 武流(ga1461)
 漸 王零(ga2930)
 水無月 魔諭邏(ga4928)
 六堂源治(ga8154)
 辻村 仁(ga9676)
 ヨネモトタケシ(gb0843)
 抹竹(gb1405)

●オープニング本文

「攻撃は最大の防御なり。時を逸し、座して死を待つは用兵の愚である」
 UPC東アジア軍中将、椿・治三郎(gz0196)の決断により、極東ロシア開発を脅かすバグア軍新兵器「雷公石」の発射基地を擁する中国東北部のバグア一大拠点・瀋陽攻略作戦は発令された。

 だが瀋陽はそれ自体が重武装要塞都市へと改造された難攻不落の牙城である。これを陥落させるには過去のあらゆる大規模作戦をも上回る困難が伴うであろう。
 しかも中国内陸部から侵攻するには、北京包囲軍を始め障害となるバグア支配都市が多いため時間が掛かり過ぎる。
 その為、UPC軍が選んだのは遼東半島経由の北上ルートによる攻略だが、同時に陽動作戦として黒竜江省、吉林省を経由したロシア側からの侵攻も実施される。
 それらの足掛かりとして重要なのが、中国東北部の要衝・ハルビンの攻略だ。
 これは又、中国方面から極東ロシアへの再侵攻を図るバグア軍と正面から激突し、その意図を挫くという重要な戦略目的も兼ねている。

 ハルビン攻撃の主力を担うのは極東ロシア軍だが、そのための侵攻ルートは2つ。
 ウラジオストックから綏芬河市(中露国境の町)で中露国境を越えてハルビンに向かうルートからバグア軍の側面を衝き、アムール川(黒竜江)をさかのぼってハバスロフクで中露国境を越えてハルビンに向かうルートで正面からバグア軍を阻む。
 しかしバグア側もかつて大敗した極東ロシア戦での屈辱を晴らすべく、並々ならぬ決意で挑んでくるであろう。陸空を舞台に激戦が予想される。
 傭兵諸君は遊撃戦力として極東ロシア軍を適宜支援して欲しい。

 ◇ ◆ ◇
<中米・バグア占領地域前線基地 鹵獲KVハンガー>
 深い闇と静寂――。
 冥界の王に相応しきこの無人の空間の中で、静かに主の帰りを待つ漆黒の機体――DH-179『アヌビス』――。
 かつてエステル・カートライト(gz0198)が搭乗していた鹵獲KVであり、腰にはバグアの特殊合金プロトライドをベースに鍛え抜かれた『業物』が一振り。
 強化人間をも圧倒的な力でねじ伏せ、翻弄する機動力。
 そして、王の眠りを妨げる無粋な足音が二つ近づいてきた――。

「ほお、これがあの小生意気な姉ちゃんの乗っていた機体か」
 日焼けした小麦色の肌と屈強な体格の男が、頬の扱けた白衣の優男に向って問う。
「はい‥‥」
 白衣の男は問いに答えた後、目で何があったのかと問い掛ける。
「この前の北米戦線の折に、ちょっとな‥‥」
 北米西海岸での作戦の折、エステルがこの機体のテストで青褪めた顔でフラフラと歩く姿を、この男が鼻で笑った所を一瞬で背後を取られて腕をねじ上げられた苦い記憶が思い出された。
「彼女の部下が死体を持ち帰る手筈でしたが‥‥失敗して軍の傭兵に捕まったとの報告です」
「あぁ、いつも側にいるあの綺麗な姉ちゃんの方だな‥‥名前は確か‥‥」
「黒き炎」
「おっ! そうそう、それだ!」
「中尉‥‥アレの中身は男なのですが‥‥」
「何!? 本当なのか? それ」
 中尉と呼ばれた屈強な男が、素っ頓狂な声を上げて驚く。
「はい。うちのラボで全身整形を行いました。外見だけでなく、女性ホルモンの自然分泌も含め、全てが入れ替わっております」
「悪夢だ‥‥。いや、どうでもいい‥‥‥本題に入ろう」
「‥‥はい」
 屈強な男は何かを振り払うように頭を左右に振ると、再びアヌビスへと視線を移した。

「俺の乗っていた新型ワームも悪くはないんだが‥‥慣性制御システムを搭載してないんでな」
「その代わり、レックスキャノンは優れた跳躍力と精度の高い砲撃戦闘能力があります」
「まあ、そうなんだが。北米戦線で傭兵と『サシ』で勝負したんだが、これが中々硬い奴でな。こいつの持ってる剣なら一刀両断も可能かと思ってな」
 屈強な男は、そう言って顎で『業物』の刀を指し示した。
「これは『カタナ』と言う物らしいですよ。あの子は日本かぶれでしたからね」
「‥‥カタナ。いい響きだ。よし、上の許可は貰ってあるから、俺に合った仕様に仕上げておいてくれ」
「分かりました。アイザック・ソマーズ中尉」
 二人の男は、一通りの話を終えるとハンガーを後にした。再び訪れる闇と静寂――。

<洋上・ラストホープ>
 本部ロビーに新たな依頼が提示された――。
 アムール川(黒竜江)を上って、同江市から松花江へと分岐する流域に於いて、UPC軍所属の水中戦用KVや船舶が相次いで襲撃された。
 偵察に出た6機のテンタクルスの内、破損しながらも帰還出来たのはたったの1機であった。
 報告によると、川の水面に20機の自走式ソナーブイが設置されており、その全てに魚雷が装備されているとの事である。
 又、川の中州や岸辺に複数のワームの存在をセンサーが捕捉している。
 今回の任務は、20機の自走式ソナーブイの全機破壊と、陸上にいるワームの殲滅である。
 なお本依頼では、水中用KVによる水中からの攻撃は推奨しない。
 魚雷はワームに搭載される物と同等品であり、1機のソナーブイから一度に4発の魚雷が発射される。
 計80発もの魚雷攻撃を一身に受ける行為は避けるべきである。
 更にこのソナーブイには爆雷も搭載されている事が、その後の詳しい調査で判明している。
 諸君らの健闘を祈る。

●リプレイ本文

●移動開始
「へーっ、川って言うからどんなもんかと思ってみたッスけど、意外と大きいッスね」
 六堂源治(ga8154)は、開口一番、その川幅の広さに驚いた。
「定員200名前後の客船が航行可能ですからね。深さも結構あるかも知れませんよ」
 ヨネモトタケシ(gb0843)が六堂の感想に反応を示す。
 傭兵達は、現地に最も近いUPC東アジア軍の駐屯基地に降り立ち、機体と予備の弾薬、燃料などのチェックを済ませて現地へと向っていた。
 無論現地に一番近い基地である為、ここからもF‐114岩龍改と戦車を含む快速展開部隊が派遣されたが僅か十数分で連絡が途絶えた。
 来るべき大規模作戦を前にして、これ以上の戦力消耗は避けたかった事から、傭兵達へのザポートは出発前のメンテナンスと補給に止められたのだ。
「ジャミングが少し強くなって来たな、そろそろ現場が近い」
 伏兵や待ち伏せなど、周囲に気を配っている抹竹(gb1405)が、敵の索敵範囲内に入った事を知らせる――。

●バグア兵対ナイトフォーゲル
「アイザック・ソマーズ中尉、敵のKV部隊がこちらに接近中との事です。機体色やエンブレムなどに統一性が見られない為、恐らく傭兵部隊ではないかとの報告です」
「おう、ついに来やがったか。ここの奴らは歯応えが無くて困っていた所だが、これで楽しめそうじゃないか」
 中尉と呼ばれた屈強な体格の男が、これまた同じく屈強な体格の曹長から報告を受けた。
「はっ。これより応戦準備に入ります」
「おう。さて、前回の借りを返させて貰うぜ。傭兵さん達よっ」
 不敵な笑みを浮かべて、アイザックはアヌビスへと乗り込んでいった。

「攻撃開始!」
 突如歩兵部隊による攻撃が傭兵達のKVに向けて一斉に襲い掛かった。
「くっ、ワームだけじゃ無かったようだな」
 先頭を行く須佐 武流(ga1461)が、歩兵部隊の放ったバズーカ砲の直撃を受ける。
「生身でKVに挑むなんて無茶にも程があるわ! 敵の隊長は頭まで筋肉なのかしら」
 藤田あやこ(ga0204)は、バルカンを掃射しながら悪態をつく。
 実際アイザックと面識がある訳ではないが、どの兵士も無駄に筋肉のついた男達であった為、隊長像も容易に想像がついたのだ。
「あら、どうしましょうね‥‥」
 水無月 魔諭邏(ga4928)は少し困りながらも、ライト・ディフェンダーの風圧で歩兵達を吹き飛ばす。
「向って来るなら仕方ない‥‥これは戦争だからな。俺達にも帰りを待っていてくれる者がいるから、こんな所では死ねん」
 愛する妻の事を思いながら、漸 王零(ga2930)はハイ・ディフェンダーで遮蔽物ごと歩兵達を薙ぎ払って行く。
 なまじ手加減して苦しませるよりも、一瞬で即死させる方を彼は選んだ。
 KVの武装は歩兵相手には強力過ぎた。倒された彼らは皆、良く分からない形状の肉塊へと姿を変えていく――。
「こんな無謀な命令を下すなんて、正直許せませんね」
 普段は温厚な辻村 仁(ga9676)も憤慨極まっていた。
「まぁ、これも任務の内って事で」
 抹竹(gb1405)も、気乗りはしないが、任務して自分を納得させる。

 序盤戦はKVの圧勝であった‥‥。傭兵達のKVには、返り血と砲弾の煤が付着して黒ずんでいたが、損傷は殆ど受けていない。
「‥‥‥一刻も早く奴を止めないと死者が増える」
 傭兵達は、血の海と化した大地を踏み越え、冥府の王の待つ戦場へと進んで行く。

●戦闘開始
 傭兵達がブイの設置場所に到着した時には、既に迎撃の準備が整えられていた。
 足止めが彼ら歩兵部隊の任務であるとするならば、十分に任務は全うされた事になる。
「まずは陣形を崩すぞ! その後は作戦通りに頼む」
『了解』
 仲間の声を合図に、王零が飛び出した。
「武流、アヌビスをゴーレム共から切り離すぞ!」
「分かった」
 須佐はバルカンで牽制を行い、アヌビスとゴーレムとの空間に疎と密の変化を付けた弾幕を形成する事で少しずつ引き離しに掛かる。
「今だ!」
 合図と同時に王零がアヌビスにハイ・ディフェンダーで斬りかかって更に遠ざけ、辻村、ヨネモト、抹竹のゴーレム班も、開いた空間に割り込む形でゴーレム部隊を引き離す。
「では、わたくしはブイの破壊に参りますわね」
 魔諭邏のアンジェリカが、ショートブーストで駆け抜け河川を目指す。
 それを見たレックスキャノン(以降RC)がアンジェリカに砲身を向け、発射態勢を取った。
「あなたの相手はそっちじゃないわ」
 藤田のビーストソウルが、入手したばかりの試作型「ブリューナク」を発射。
 無人機は尻尾のアウトリガーを固定して低姿勢で発射態勢に入っていた為に即応が出来ず、直撃弾を食らう。
 反動対策のアウトリガーにより、着弾の衝撃を後方に流せなかったRCは思った以上に損傷を受けた。
「ありがとうございます」
 魔諭邏は礼を言うと、そのままブイの設置場所を目指す。
「藤田のそれ、良いッスね。俺も欲しくなったッス」
 そう言いながら六堂は、被弾したRCが態勢を立て直す前にスラスターライフルで追い討ちを掛け、ブーストで一気に間合いを詰めてエグツ・タルディで撃ち貫いた!
 物理耐性の緑であったが、残りのHPが減っていたRCには、耐性も意味は無かった。
「‥‥あげないわよ」
「残念ッス‥‥」
 会話の終了と同時にRCの1機が爆発炎上する。
「では、俺はアレをもぎ取って見るッスよ」
 六堂の言う『アレ』とは、RCのキャノン砲であった。
 バグアの兵器は人類側では全く使えないのだが、冗談ではあっても手に入れたという満足感だけは得られる。
「どこに付ける気かしら」
 フッと笑みをこぼした藤田も六堂に続く。戦闘はまだ終わっていない。
 残りの1機は、エグツ・タルディの威力を警戒して距離を取ろうと移動を開始していた――。

●鷹視狼歩
「どうした!? お前達の力はそんなものなのか!?」
 ゴーレムとの引き離しに成功したアヌビス班であったが、エステル・カートライト(gz0198)が搭乗していた頃とは全く違う仕様のアヌビスに翻弄されていた。
「くっ!」
 須佐のバルカンとレーザーカノンの弾幕は、二つの巨大円月輪で完全に防がれる。
 王零のジャイレイトフィアーの初撃は見事に交わされ、現在は扱いやすいハイ・ディフェンダーに切り替えていた。
 エステルの場合は、慣性制御システムに強化スラスターとブーストを追加した、強烈なGの掛かる機体であった。
 それに対してアイザックの機体は、強化スラスターが全て外されエースゴーレムに標準装備されている強化型回避能力を使う事で、よりマイルドな回避を可能としていた。
 代わりに固定された練力を毎回消費する為、大型の燃料タンクが増設されている。
「俺は戦争のプロだからな。ベッドの上で青い顔をしていた素人の姉ちゃんとは訳が違うんだよ!」
 アヌビスは慣性制御システムで軽く浮遊すると、滑るように水面を移動する。
 全てに於いて、今までとは比べ物にならない程滑らかな動きで隙がない――。
「食らえ!」
 アヌビスは8つに分身して王零に肉薄する!
「その手は食わん!」
 王零はレーダーに一瞬目を向け、本体に当たりを付けて斬り込む!
「――フハハハッ!」
 アイザックの勝ち誇った笑いに、何か嫌な空気が場を支配した。
「――何!?」
 王零は目を疑った!
 虚像であるはずのレーダーには、8つの影が『点滅』しながら映し出されていたのだ――!?

●ゴーレム旋風陣
 アヌビス班も苦戦していたが、こちらもゴーレムの動きに翻弄されて苦戦を強いられていた。
「くっ、これでは近づけませんね」
 双機刀「臥竜鳳雛」を構えたヨネモトのアヌビス『黄泉』が、ゴーレムに斬り込んだが間合いが違い過ぎて退いた。
 3体のゴーレムは背中合わせにくっ付き合い、慣性制御システムで浮遊すると、持っていた大剣を水平に構えて回転し始めたのだ。
 大剣による物凄い風圧で砂塵が舞い上がって視界が悪く、リニア状態での高速回転は、能力者の動体視力を以ってしても見切れなかった。
 しかも回転を維持したまま移動も出来る為、3人は回避行動を取りながら打開策を思案していた。
「駒は軸がぶれると転倒しますけど、どうでしょうか」
 辻村がツングースカで足元を狙いながら発言し、軸をぶらせて転倒を狙う。
 だが高速回転による均等な遠心力が、ツングースカの弾圧を上回っており、ぶれるまでには至らない。
「うーん、軸攻撃はだめみたいですね」
「なら、上からってのはどうかな」
 抹竹はそう言ってKVをジャンプさせた。
「どうだ?」
 上空から同じくツングースカをお見舞いするが――、持っていた大剣を捧げ持つ事で防御された。
「ゴーレムのくせにやるじゃねえか‥‥」
「得物はあの大剣だけですから、こっちも連携でいきましょう」
「作戦は?」
「自分がスラスターライフルで軸攻撃をして注意を惹きますので、その隙にお二方で上空より攻撃して下さい」
 ヨネモトの提案で傭兵側も連携による反撃に転じた。
 スラスターライフルによる挑発に乗ったゴーレム達は、ヨネモトを斬り刻もうと移動を開始――。
「チャンス!」
 辻村と抹竹の機体二機が、呼応してジャンプ! ――ゴーレムの頭に目掛けてツングースカを撃ちまくった。
 ダブルツングースカの威力の前に、遂に1機のゴーレムの頭が吹き飛んだ!
「やった!」
 辻村が喜ぶ。
 1機の頭が無くなり回転が遅れた事で連携は崩れ、3機のゴーレムは遠心力によって弾かれた。
「立ち上がる前に畳み込みますか」
 抹竹の白いアヌビスはブーストで1機のゴーレムに詰め寄り、ルプス・ジガンティクスで頭を掴んで締め上げ、地面に叩き付ける!
「あなたに二刀の奥義を披露しましょう」
 ヨネモトも続き、臥竜鳳雛の鋭く重い太刀筋がゴーレムの胴を貫いた。
 二刀は片手である為、太刀筋に重みが無いと言われるが、それは違っているようだ。
 剣術の基本は全体重を乗せて断ち切る事を前提としている為、それは二刀も一刀も同じなのだ。二本の刀が一本の刀に劣るという事はない。
 手の平に棒を立ててバランスを取れば、自然と体も動く。それこそが剣の体捌きの基本である。
「よし、貫けグングニル!」
 掛け声と共に辻村のポニーテールが大きく揺れ、ゴーレムの巨体を刺し貫く――。
 当初苦戦を強いられたものの、ゴーレム班は全機無事に任務を全うした。
「RCの方も片付きそうですから、アヌビス班と合流しましょう」
 3機は、須佐と王零の元に急いだ。

●ソナーブイ破壊
 時は少しだけ巻き戻り――水無月 魔諭邏は自走式ソナーブイの設置場所へと辿り着いていた。
「急いては事を仕損じます。慌てず速やかに参りましょう」
 周囲の喧騒とは裏腹に、彼女の周囲だけは不思議なマッタリ空間が形成されていた。
「では、はじめましょうか」
 高初速滑腔砲で、まずは遠くのソナーブイの破壊を試みる。
 水中には入らず、陸からの狙撃を狙った――。
 ソナーは水中への索敵・攻撃手段を持っているが、陸上からの攻撃には全くの無防備であった。
「やりまたわ、命中です」
 彼女は1機破壊するごとに歓喜し、次々と破壊していく。
 ミーティングでは、他の傭兵達も破壊を手伝う予定であったが、彼女一人でも余裕のようであった。
 しかしこれを面白く思わない者もいた――アイザックである。
「ゴーレム3機はやられちまったか‥‥ちっ、ソナーもかよ」
 鹵獲アヌビスは業物を水平に一振りして須佐と王零を牽制すると、急転進を始めた。
「待て! 逃げるのか!?」
 今回いい様にあしらわれた二人は、アヌビスを追いかける。その先にある物は――魔諭邏のアンジェリカだ!

●中州空中戦
 更にこちらの時も巻き戻そう。
 残り1機となったRCを追撃した藤田と六堂の二人。RCは浅瀬から最大跳躍で中州へと降り立つ。
 ここにも自走式ソナーブイが数機設置されている為、水中に入れば標的にされる事は必至――。
「高分子レーザーがくず鉄になっちまったんで、知覚攻撃は任せたッスよ~」
「いいけど‥‥ちょっと試したい戦法があるから試してみない?」
「いいッスね~。どんなのッスか」
「こういうの――よ!」
 藤田のビーストソウルが空を飛んだ! 否、ジャンプした。
 そして上空からメガレーザーアイをお見舞いする。
「面白そうッスね。俺もやってみるッス」
 六堂もジャンプし、ショルダーキャノンを撃ち込んだ。
 が、藤田の攻撃で警戒していた為、今度の攻撃は同じくジャンプで交わされた。
「イエ~イ! 何だかワクワクして来たッスよ」
「話してると舌噛むわよ!」
 ビーストソウル、バイパー、RCの3機は中州を挟んで跳躍を続け、恰も空中戦のような戦闘を繰り返す。
「跳躍力が自慢のようだけど、それもここまでよ」
 着地のタイミングを狙ってブリューナクを放つ藤田。
「もらったッス!」
 下で待ち受け行動値を稼いだ六堂が、スラスターライフルとショルダーキャノンの連続斉射で止めをさした。
「いや~楽しかったッスね」
「まだ本命が二つ残ってるわ。行きましょう」
 藤田は照れ隠しに剣呑に答えると、周囲のソナーブイを壊して合流ポイントへと向った。

●鹵獲アヌビスの最後
「きゃあ!」
 アイザックの鹵獲アヌビスが、魔諭邏のアンジェリカに円月輪で攻撃を加える。
 この武器は、盾にもヨーヨーの様に飛ばして斬ることも出来る。
「これで終わりだ」
 業物が一閃――、咄嗟に顔を庇う仕草の左腕が斬って落される。
「水無月!」
 一足違いで追い付いて来た須佐と王零。
「水無月、一旦引け!」
「うぅ‥‥了解ですわ」
 アンジェリカが一旦下がる。しかし彼女も傭兵である為、後方からの援護射撃態勢は忘れない。
 王零がアヌビスに斬り込む! アヌビスは業物でそれを受け、二撃目を再び回避能力で逃げる。
 逃げた先に須佐が弾幕を張って、再び王零が斬り込む――。
 無限とも思われたこの鬼ごっこにも、遂に終止符が打たれようとしていた。
「ちっ、燃料が残り少ねぇ」
 鹵獲アヌビスは円月輪を投げ付け、その隙に逃走コースに乗ろうとした。

 その時――! 鹵獲アヌビスに火が点いた!

 魔諭邏の放った高分子レーザー砲の一撃で、燃料タンクに穴が開いたのだ。
「この程度の炎では、燃え尽きねぇぜ!」
 だが、残りの燃料が全て気化した為に、アヌビスはその動きを完全に止めてしまった。
「出直しだ!」
 アイザックは脱出装置のボタンを押したが反応しない。
「おい、冗談だよな‥‥」
「元の持ち主の所に返るんだな。武流‥‥止めを刺せ!」
「分かった‥‥」
 用心深く近付き、試作剣「雪村」を居合い抜く!
「ひっ!」
 そしてアヌビスは、業物ごと袈裟斬りに一刀両断され、アイザックを道連れに爆散した。

 全ての決着が付いた頃、分散した傭兵達が集合してきた。
 ワーム勢がいなくなった事で、ソナーブイは傭兵達全員の働きで完全に破壊され、任務は大成功を収めた。

(END)

020 エステルの末路

.01 2009 納品物(Catch The Sky ~地球SOS~) comment(0) trackback(0)
本リプレイの公開は、株式会社テラネッツの承認を得ております。
 又、本リプレイの著作権は『水無瀬 要』に帰属しており、知的財産権等は株式会社テラネッツに帰属します。
 本リプレイの一部もしくは全ての転載、複写、翻訳、他サイトへの配信等は禁止させて頂きます。
 (C)Terranetz Co.,Ltd. All rights reserved.

■作者より
 NPCのエステル・カートライト(gz0198)を、何とか『ヨリシロ』として蘇らせようと画策したシナリオです。
 しかしゲームである以上、私情は挟めません。
 PLの見事な活躍(プレイング)によって、復活は阻止されました。

●参加者一覧
須佐 武流(ga1461)
リュドレイク(ga8720)
柿原ミズキ(ga9347)
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055)
霧島 和哉(gb1893)
アレックス(gb3735)
サンディ(gb4343)
ナンナ・オンスロート(gb5838)

●オープニング本文

<中米・メキシコ――バグア占領地域前線基地>
「なに!? それは本当なのか?」
 黒き炎の元に、エステル・カートライト(gz0198)の消息が途絶えたという報告がもたらされたのは、彼が自室でサイフォン式のコーヒーを入れて、その香りと味を楽しんでいる時であった。
「はっ、至急捜索隊の派遣を要請するとの事です」
「分かった。確か嬢ちゃんには発信機を持たせていたよな?」
「はっ、ビーコンの位置は、カリフォルニア南部付近の海上で消えているのを確認しております」
「海上だと!?」
 黒き炎は目を白黒させて驚く。撤退方向とは明らかに違っていたからだ。
「まあ考えててもしゃあねぇな。水中型キメラとダイバー部隊の手配を頼む」
「はっ!」
 軍曹は敬礼をして走り去った。
「‥‥嬢ちゃんの身に何が起ったってんだ‥‥くそ!」

 ――コンコン。
 黒き炎が身支度を整えている最中、自室のドアをノックする音が聞こえて来た。
「おう、開いてるぜ」
 中に入って来たのは、頬の痩せこけた白衣を着た研究員であった。
「何だ、あんたか」
 黒き炎は、この人物を知っていた。エステルを強化人間に改造した『ラボ』の主任研究員である。
「失礼します。今から彼女の捜索に向われるのですよね」
 研究員は、中性的なよく通る声で訊いて来る。
「ああ、急ぐんで手短に頼まぁ」
 黒き炎は、この男がここに来た理由を何となくではあるが理解していた。
「万が一にも遺体となって発見された場合‥‥基地に持ち帰らずに、直接ラボに送って下さい。理由はお分かりになりますよね?」
「‥‥ヨリシロにするんだよな?」
「ええ。そして念の為に申しておきますが、彼女の体は絶対にUPC軍に渡してはなりません。万が一にでも手に渡りそうであれば、これを使って下さい」
 黒いリモコンスイッチの様な物を手渡される。
「‥‥」
「彼女の体はバグア生体技術の見本市の様なものです。普通の人間であった者にフォースフィールドは使えませんからね」
「ヨリシロにするんだろ? こいつで爆破しちまったらお仕舞いじゃねえか」
「はい、ですので最後の手段だと申し上げております」
「分かった。俺様はもう出撃したいんでな。話は終わりだ」
「行ってらっしゃいませ。お早いご帰還を」
(「‥‥こいつは正直使いたくねぇな‥‥」)

 黒き炎の指揮の下、遺体の捜索は昼夜に亘って行われた。
 途中UPC軍の哨戒艇との小競り合いもあったが、随伴した3機のAH‐64改の支援攻撃によって邪魔者は速やかに排除された。
「見つかったか?」
「はっ、バフォメットが包み込むように抱き抱えていたのが幸いしたようで、食い荒らさせる事なく原型を留めているとの事です」
「よし、直ちに回収してくれ。AH‐64改は目立つんで、もう撤収させても良いぜ。輸送準備は整ってるんだろうな?」
「はっ、既に配置に付いております」
「UPCに嗅ぎ付けられてるからな。ここからは時間との勝負だ」

<洋上 ラスト・ホープ本部>
 哨戒艇炎上より約1時間後、本部ロビーに新たな依頼が提示された。

 北米西海岸南部の洋上に展開するバグア軍に不穏な動き有り。敵は何かを捜索・回収作業を行っている模様(詳細不明)
 その後の観測により、当初確認された戦闘ヘリは撤収、現在は沿岸に待機させてあった輸送車両と、護衛車両に守られながら南下を開始している模様。
 恐らく目立たない様に輸送する為、陸路が選択されのであろう。戦闘機のミサイル攻撃回避も視野に入れた可能性もある。
 諸君らは同じく陸路にて敵輸送部隊を強襲し、輸送品の確保及び回収を依頼したい。
 なお、中身については、一傭兵である諸君らが知りうる必要は無い。以上。

●リプレイ本文

●黒き炎の戸惑い
 エステル・カートライト(gz0198)の遺体を運ぶ輸送隊は、順調に沿岸沿いを疾走していた。
 民間協力者も含めた編成で構成された観測班からの報告によると、ジープを先頭にして中央に輸送車、後方に兵員輸送車の3台である事が確認されている。
「どうだ?」
「はっ、予想通り暗号通信が引っ切り無しに飛び交っています」
 黒き炎の乗車する先頭車両では、彼の指示によって周辺のUPC軍の発する電波が傍受されていた。
「ま、暗号解読まではしなくてもいいさ。とりあえず奴らが俺様達の動きに呼応して動いている事だけ分かりゃあ良いしな」
「はっ」
(「さて‥‥どうしたもんかな‥‥命令に従うか‥‥それともいっその事、墓でも立てて弔っちまうか‥‥」)
 黒き炎も内心では迷っていた。強化人間で綺麗に死ねた者は殆どいない。
 ヨリシロになってしまったエステルは、死亡してからの時間経過の関係上、記憶の大部分を失った『全く別の存在』として生まれ変わる。
 もう彼の知っている『嬢ちゃん』はいなくなったのだ――永遠に。

「少尉! 前方より車両接近!」
 黒き炎も指揮系統の便宜上、バグア軍より少尉の階級を与えられていた。
「おっと、来やがったか!」

●強襲!
「前方に目標と思われる車両を視認した。これより強襲攻撃に移る!」
 先頭をバイク形態で疾走するアレックス(gb3735)が目標を発見。直ちに襲撃態勢に移る。
 傭兵側は3台のAU‐KVを先頭に、須佐 武流(ga1461)の乗るインデースが中央に位置し、残りのメンバーの乗った兵員輸送車が最後尾という編成である。
 兵員輸送車の運転はリュドレイク(ga8720)が行っていた。彼は重症を押しての参戦であった為、自ら進んで運転を買って出たのだ。
「了解です。では作戦通り敵の足が止まったら、俺達は包囲陣を敷きます」
 そう言ってリュドレイクの兵員輸送車は減速に入る。擦れ違ってしまっては包囲陣を敷けない為だ。

「向こうも数が少ねぇ! 脇に逸れて強行突破だ!」
 黒き炎は前方のAU‐KVを見て、相手が能力者である事を確認した。
 しかし向こうも少数である為、このまま強行突破で逃げ切る作戦に出る。
 舗装路を走行していたバグア輸送車両は、道を外して荒野へと進路を取り、ジープの助手席に座っていた黒き炎が小銃を撃って牽制を行う。
「逃がさん」
 須佐も同じくインデースを転進させて、ジープ目指して突っ込む!
 激しい銃弾によって割れるフロントガラス。車内を暴れまわる銃弾を避けるように須佐は体を横にしながらステアリングを握り、接近した所でサイドブレーキを引きながらステアリングを回転! ――インデースを横にスライドしてジープの鼻っ面に当てた。

 激しい衝撃音――!
 インデースと先頭を走るジープとの接触に、後続の輸送車両が慌ててブレーキを踏んだが、荒地の砂でタイヤがロックして止まらない!
「わあっ!」
 輸送車両は前方のジープに玉突き衝突。
「そこだ!」
 AU‐KVを装着したアレックスが竜の翼で急接近。更に竜の咆哮を使った攻撃で輸送車の横転を狙う。
「くそ、フォースフィールドの無い車両だと、武器が貫通しちまって上手く弾き飛ばせねぇか」 
 アレックスは仕方無くタイヤに穴を開けて回った。

 好機とばかりにナンナ・オンスロート(gb5838)のAU‐KVも突入を開始。装着モードに切り替えて後、大口径ガトリング砲で車輪を吹き飛ばしに掛かる。
 愛車がいきなりボロボロになってしまった須佐も、開かなくなったドアを蹴破って外に飛び出し、持っていた得物で次々と車両を攻撃していく。
 バグア兵士達も次々と降車して応戦。豆鉄砲ではあるが、やはり当たればデコピン程度の衝撃が加わるので痛い。
 包囲班で唯一バイク形態で先行していた霧島 和哉(gb1893)が、盾を構えながらバハムートの重装甲を活かして襲撃班を守る。
「リュドレイクさん‥‥包囲網の展開を‥‥お願い」
 敵の輸送車が止まった事を確認したリュドレイクは、兵員輸送車をバリケード代わりに割り込ませて停車。能力者達も次々に降りて来る。
 勢い良く飛び出したロゼア・ヴァラナウト(gb1055)が、ライフルを持って車両の陰から援護射撃を開始。続いててリュドレイクも助手席側から降車し、ドローム製SMGで応戦を始めた。

「今更キメラを使っても、ちょっと分が悪いな‥‥」
 黒き炎の迷いは確実に彼の判断を鈍らせていた。もし、初手でキメラを全て投入して車両を散開させていれば、もう少し逃げ延びた可能性もあった。
「ま、考えてもしゃあねぇな。おい、俺様が妙案を考え付くまで時間を稼いでくれ」
 後部荷台の檻から放たれたキメラは、アタックビーストと呼ばれる大型の肉食獣のような姿をしたキメラであった。
 そして黒き炎は後部荷台側から左側面に回り込むと、無線機をむしり取る様にして掴み後続の車両に連絡を入れた。
「そこにいるキメラも全部投入しろ! 足は遅ぇし弱っちぃが何とかなるだろう」
 連絡を受けたバグア軍兵員輸送車から、3体の半漁人キメラが降りて来る。エステル捜索の為に投入された水中キメラだ。
「お前も行くか?」
 更に黒き炎の護衛として足元にいたナイフプチャットも投入。
 このキメラは小型のサーベルタイガーのような姿をしていた。肉食獣の赤ちゃんサイズと小さな体ではあったが、その分機敏な運動能力と鋭い牙を持った侮れない相手である。
「それにしても‥‥俺様もそろそろ年貢の納め時かも知れねぇな」
 未だかつて『黒き炎』として衆目に姿を晒した事が無かった彼であったが、今回は全く精彩を欠き、逃げられない状態にあった。
「‥‥生き残るさ」
 彼はそう呟くと、キメラ達が戦闘に突入した隙を見て後退し、兵士達と合流した。

●対キメラ戦
 最初に飛び出したアタックビーストが能力者達に向って来る。
「キメラは銃撃の中で戦うよりも、バリケードの内側に誘い出してから倒した方が良さそうですね」
「そうだね。死なないけど当たると多少でも痛いから、戦闘に集中出来ないかも」
 間断無い射撃で兵士達を釘付けにしているロゼアの提案に、柿原ミズキ(ga9347)も同意した。
「ではそうしましょう。ロゼアとリュドレイクは引き続き兵士達を抑えておいて。半漁人キメラも暫く近づけないようにしてくれると助かるわ」
 ハミングバードをすらりと抜刀したサンディ(gb4343)は、二人に支援を頼むとリュドレイク側に立って剣を構えた。万一リュドレイクがキメラに襲われた場合のフォローに入る為だ。

 アタックビーストは勢いを付けてバリケードの兵員輸送車を飛び超え、能力者達の眼前に姿を現した。
 接近戦の得物を持った5人がキメラの迎撃に当たり、射撃武器を持ったナンナは、ガトリングで動きの速いキメラの牽制に回る。
 アタックビーストは、上手く弾丸を避けながら果敢に挑む――、しかし能力者の練度は高く、容易に牙や爪で引き裂かれてくれない。

(「黒き炎がいたって事は‥‥やはり輸送品はエステルの遺体かも知れねぇな」)
 アレックスは、単調になりつつあった戦闘に気が緩んだのか少し考えに耽ってしまった。
「――アレックス上!」
 ナンナの叫びに上を見るアレックス。
「何!?」
 小柄なサーベルタイガーを思わせるナイフプチャットが、バリケードの幌の上から襲い掛かって来た!
「ちっ!」
 アレックスは槍を回転させてキメラを薙ぎ払おうとした。しかし素早い動きで体を入れ替えたナイフプチャットは、自慢の牙でランスに噛み付き攻撃手段を封じ込めにいく。
「アレックス!」
 ナンナが竜の翼で一気に近付くと、至近距離からガトリングでナイフプチャットの頭に弾丸を撃ち込んだ。
『ギャン!』
 数発の弾丸を浴びたものの、体をくるりと捻って素早く離れる事で、どうにか致命傷は避けた。
 しかし、頭部から夥しい出血をしており、右目も潰れていた。
 そこへ背後から忍び寄る気配に慌てて振り向くナイフプチャット――!
「遅い」
 迅雷で背後に回り込んだサンディは、細身の剣を構えてキメラに突き入れる。
『ブギャッ!』
 ナイフプチャットは断末魔を上げて息絶えた。

 一方、牙を立てようと接近して襲い掛かっていたアタックビーストも、至近からの反撃にあって無数の傷を負っており、こちらもそろそろ決着が尽きそうであった。
「さあ、かかってきなよ地獄に墜としてやる」
 キメラの爪で少しだけ負傷した柿原が、狂気に歪んだ顔でアタックビーストを挑発する。どうやら彼女の内なる何かが壊れたようだ‥‥。
 大鎌を構えた柿原は、更にソニックブームで追い討ちを掛ける。
『グルルルッ!』
 低い態勢で威嚇の声を上げるアタックビースト。
「来ないなら、こっちから行くよ」
 そう言って大鎌を下段に構えて斬り上げる!
 アタックビーストは宙に舞い上がると180度体を捻ってかわした。
 着地と同時に須佐が瞬天速で近づき、バトルアートで足蹴りの一撃を加える!
『ギャン!』
 態勢が崩れた所を、まるでサッカーボールのドリブルの様に蹴り捲られるアタックビースト。
「柿原、止めだ!」
 須佐が刹那の爪で蹴り上げ、落下するキメラを柿原が下から袈裟斬りにする。
 胴を真っ二つに斬られたアタックビーストは舌を出してヒクヒクと痙攣を繰り返していたが、やがて動かなくなった。

●投降
 少しだけ時間を巻き戻すが、こちらは3体の半漁人と対峙したロゼアとリュドレイクの二人組――。
 他のメンバーが心おきなく戦えたのは、彼らが上手く半漁人キメラと兵士達を抑えてくれたお陰である。
 リュドレイクは直接攻撃で仕留める事が出来ない分、足元を狙って半漁人を足止めし、ロゼアが頭を狙っていく作戦だ。
 狙いは正確無比。元々地上では鈍足なキメラであった為、スナイパーのロゼアにとっては余裕で当てられる標的であった。
「これで終わりね」
 頭部に合計3発の銃弾を受けた半漁人キメラは、前方に突っ伏すように倒れる。
 強弾撃は留めの一撃として使い、乱発はしない。
「どうやら向こうも戦闘が終わったようですね」
「こちらも、もう直ぐ終わります」
 更にもう1体の半漁人が銃弾に沈む。
 残り1体も頭部からダラダラと血を流し、フラフラの足取りであった為、数秒後には決着が付くと予想された。

「ちっ、頼りのキメラがやられちまったようだな」
「‥‥‥」
 軍曹の顔が蒼褪める。彼は生粋の軍人ではあるのだが、まだ20代前半の青年でもあった。
 若さ故に時として感情が顔に出る。
「なあに心配すんなって。奴らは捕虜を弄り殺しにするような連中じゃないさ」
「はぁ‥‥‥」

 戦闘は能力者側の完全勝利で終結した。
 SES機構を持たないバグア兵士の武器で能力者達の行動を阻害する事は困難である為、キメラを失った彼らが完全に包囲されるまで時間を然程要さなかった。
「大人しく武器を捨てて投降しなさい」
 能力者達が投降を勧める。メンバーの中には全員抹殺しようという動きもあったが、やはり人殺しは生理的にも嫌なものである為、素直に投降するのであれば殺す必要も無いという結論に達した。
「分かった。撃たないでくれ」
「はじめましてで良かったのかしら。あなた黒き炎ですよね?」
 サンディは警戒しつつもゆっくりとした口調で若い女性将校に誰何する。
「‥‥あぁ」
 黒き炎はぶっきら棒に答える。
「確か資料では男だったと記憶してるのですが‥‥上手く化けましたね」
「バグアの整形外科技術は人類以上だからな。外見だけじゃねぇんだぜ」
「えっ‥‥中身も‥‥なんだ!?」
 霧島が顔を赤く染めて驚く。
「ばかっ、変な想像は止めてよね!」
 ナンナも顔を耳たぶまで真っ赤に染めながら霧島を肘で突いた。
「へっ、ガキには刺激が強い発言だったかな」
 黒き炎は、そう言ってにやりと笑う。――そしてさりげなくポケットに手を入れて『ある物』を取り出した。
「――!」
「おっと、迂闊に動くと積荷がどうなっても知らねぇぜ。お前らはあの荷物が目当てなんだろ?」
「‥‥‥」
 全員に緊張が走る。リュドレイクが探査の眼を駆使していたが、事前の発見には至らなかった。

 能力者側は、あの荷物の中身に心当たりはあった‥‥。しかしそれが仮に『そうであった』として、このまま逃げられるか失った場合、依頼は失敗と言う事になる。
 とは言え今回の依頼に対して、UPC軍に懐疑的な感情を持っていたのも確かであった。
「ここは私に任せてくれませんか?」
 サンディが交渉を試みたいと申し出る。
「俺は良いぜ」
「任せるわ」
「僕も‥‥」
 アレックス、ナンナ、霧島が即答で了承する。
「中身には全く興味ないけど、皆がそれでいいなら従うわ」
 とロゼア。
「ボクは賛成もしないけど、反対もしたくないな。中途半端だけど‥‥これがボクの考えだから」
 柿原は黙して語らずを選択。
「俺は今回こんな様ですからね。何も言えませんよ」
 リュドレイクも柿原と同意見だ。
「‥‥俺は軍に引き渡したかったが‥‥ここで全てを終わらせるのなら、それに従おう」
 須佐も形はどうであれ、ここで決着を付ける事が出来るのであれば、反対しない姿勢を取った。
 サンディは頷き、黒き炎に向き直して話し始めた。
「見当違いだったらごめんなさい。‥‥あなたは、エステルの事が好きだったのではないですか?」
「なっ‥‥」
 黒き炎は口を大きく開けて呆けた。明らかに動揺しているのが、その場にいる全員にも伝わった。
 確信を持ったサンディは更に続ける。
「このままヨリシロにされて、あなたはそれでも良いのですか?」
「‥‥‥」
 黙してはいるが、黒き炎の持つリモコンは小刻みに震えている‥‥。
「私の友人は、彼女を人のまま弔いたいと言っていました。あなたに出来ないのなら私達がします。この場は任せて頂けませんか?」
「‥‥‥信用しても良いんだろうな? 頭だけ潰すとか、これ以上死者への冒涜は許さねぇからな」
「約束します。ですからそれを渡して下さい」
 時間にしてほんの数秒であったが体感的に長く感じられる間をおいて、黒き炎はリモコンをサンディに渡した。

 ――それから数時間後。

 結果として輸送品は車両炎上によって全焼し、依頼は失敗に終わったと言う能力者達のレポートが正式に受理された。
 当初はぺナルティも考えられていたが、黒き炎を逮捕した功に報いる為、今回の依頼は失敗ではあったものの些少の報酬が支払われた。
 観測班によると、依頼区域で『何かを燃やす黒い煙』が数時間亘って立ち昇るのが観測された。しかしこれは、戦闘による銃撃で須佐 武流の乗るインデースが炎上した際の煙と考えられ、該当の傭兵には同等の車両が再支給された。

 そして――
 能力者達に拘束されUPC軍に引き渡された黒き炎と兵士達は、その後軍刑務所への護送中に何物かの手引きで脱走した事だけが報じられた‥‥。

(END)

019 【MN】希望を未来へ

.01 2009 納品物(Catch The Sky ~地球SOS~) comment(0) trackback(0)
本リプレイの公開は、株式会社テラネッツの承認を得ております。
 又、本リプレイの著作権は『水無瀬 要』に帰属しており、知的財産権等は株式会社テラネッツに帰属します。
 本リプレイの一部もしくは全ての転載、複写、翻訳、他サイトへの配信等は禁止させて頂きます。
 (C)Terranetz Co.,Ltd. All rights reserved.

■作者より
 『夢オチ』シナリオです。
 CTS本編の世界観をベースに、未来のストーリーとしてオリジナルの設定を作り上げました。
 結構楽しかったですね。
 SF考証を含め、慣性制御による宇宙戦闘を上手く表現出来なかった事が悔やまれます。

●参加者一覧
伊藤 毅(ga2610)
夜十字・信人(ga8235)
Anbar(ga9009)
三枝 雄二(ga9107)
火絵 楓(gb0095)
イスル・イェーガー(gb0925)
守上・皐月(gb2240)
雪代 蛍(gb3625)
石田 陽兵(gb5628)
トリガー(gb8359)

●オープニング本文

※このオープニングは架空の物であり、登場する機体、武装、特殊能力等は全て『妄想の産物』です。
 よって、現在のCTSの世界観には影響を与えません。

※恐れ入りますが、相談期間中の拘束は通常通りに発生致します。予めご了承の上ご参加下さい。


<西暦2140年8月下旬 地球衛星軌道上>
 ――1990年、外宇宙から飛来した謎の宇宙生物『バグア』の侵略を受けてから、既に150年の歳月が経過していた。
 人類は『能力者』と呼ばれる一握りの選ばれた戦士達と、ナイトフォーゲルと名付けられた可変戦闘機を駆ってバグアと戦い抜いた末に、ようやくメトロポリタンXの開放にまで至る。
 各メガコーポレーションは、数多くのブラックボックスを有するドローム社によって吸収併合され、一つに纏まっていた。
 そして、全メガコーポレーションの技術の粋を結集して新造されたユニバースナイト拾弐番艦――超弩級宇宙戦艦『エルダ』が建造された。
 全長は40kmにも及び、ギガワームをも軽く凌駕するその巨体は、正に人類の意地と反骨精神を具現化した象徴でもあった。
 搭載する機体は、ようやく全容が解明された『試作型重力慣性システム』と『空中変形スタビライザε(イプシロン)』を搭載した最新鋭KV『ロスヴァイセ』を、800機搭載している。

 更に人類は、地球を間に挟み、バグア本星とは対称的な位置に、第2のラストホープとも言える巨大軌道ステーションの建造にも着手しており、完成を間近に控えていた。
 人類は150年もの年月を掛けた死闘の果てに、ようやくバグアと同じ土俵へと上り詰めようとしていた‥‥。

「艦長、敵襲です」
 覚醒して白銀の髪をゆらゆらと棚引かせたオペレーターが敵機襲来を告げる。恐らくエミタを付けた能力者なのであろう。
 この時代になると、エミタも自在な調整を可能とし、АIのサポート能力も、多次元多重情報処理やナノレベルでのマニュピレートといった、より高度な内容を可能にしていた。
 また、別途に言語端末を体に装着する事で、エミタに会話機能を付ける事さえも可能としたが、酷く機械的で淡白な応対と、言語端末が戦闘では邪魔になる為に、最初は珍しがって利用者も多かったが、今ではごく一部の者しか使用していない。

「全艦第一種戦闘配置!」
 白い髭を蓄え、見るからに『宇宙(うみ)の男』といった風貌の艦長は、戦闘態勢への移行を告げた。
「もうすぐ人類の第二の希望とも言える――軌道ステーション『エタニティ』が完成する‥‥。何としても守り抜かねばならん」
「敵の数は!?」
「はい、敵機数‥‥約120」
「‥‥いつもより少ないな‥‥ロスヴァイセ発進! 200もあれば良い。それよりも索敵に全力を注げ! 奇襲があるやも知れんぞ」
「了解しました」
 オペレーターは各セクションに指示を出す。
「杞憂であれば良いが‥‥」
 艦長は髭を扱きながら、敵の意図を推し測る‥‥。

 ――戦闘は人類側の勝利に終わったが、こちらも半数近くを撃墜されており被害甚大であった。
「敵襲。第二波来ます」
「くそ! こちらの疲労と消耗を狙っての波状攻撃か!」
「数、およそ500。例の敵新型もいます」
 熱い艦長を余所に、オペレーターは冷静である。
「こちらも出し惜しみは無しだ! 直掩機以外は全て投入しろ。波状攻撃の波をここで止める!」
 エルダ護衛の100機を除く600機が全機スクランブル。500対600と数の上では勝っているが、敵は新型を投入している為油断は出来ない。
 人類は『最後の希望(ラスト・ホープ)』から未来を紡ぎ出し、『永劫(エタニティ)』を手に出来るのだろうか‥‥。

●リプレイ本文

●女神の咆哮
<ユニバースナイト(UK)拾弐番艦『エルダ』・艦載機発進デッキ>
『コノ作戦ヘノ参加ハNOダ、生還率ガ低スギル』
「うも! そんなのは関係ナッシングだ! 今回もあたしが居れば楽勝よん♪」
『毎回大破デカ?』
 火絵 楓(gb0095)は、いつものように言語端末を装着して会話が可能となったAIとコントをしていた。
 AIも誰に性格が似たのかは分からないが、結構容赦の無いツッコミを入れて来る。
「にゃ! それは言わないで」
 火絵はAIとのスキンシップを終えると、ロスヴァイセに乗り込む。
「さ~て、新型機同士の戦い! 面白くなってキター!」

「ロスヴァイセ全機、発進準備整いました」
 オペレーターの無感情とも取れる冷静な声が、艦橋に響く。
「主砲発射準備! 序盤で敵を1機でも多く仕留めるぞ!」
 UK拾弐番艦『エルダ』の主砲は、来るべきバグア本星の外壁破壊を想定して作られた超大型ビームカノン砲である。
 その威力はギガワームをも一撃で破壊可能な程凄まじいが、一度発射するとエネルギーの再チャージに時間を要する為、使い所の難しい兵器でもあった。
「‥‥敵、射程内に入りました」
「よし! 撃て!」
 エルダの船首よる放たれたビームは、敵前衛部隊を一飲みにしていく――、それは宛ら大蛇が獲物を次々と飲み干していく姿にも見えた。
「どうだ?」
「‥‥敵前衛部隊消滅。推定撃墜数‥‥およそ200。続いて、ロスヴァイセ発進します」
 艦長は大きく頷くと、ようやく艦長席に腰を下ろした。彼は指揮を執る時は立ち上がって腕を大きく振り回す仕草が癖の熱血漢である。

「ドラゴン小隊、発進する」
 伊藤 毅(ga2610)率いるドラゴン小隊が、エルダより発進して行く。
「タイガー小隊発進っす!」
 同じく三枝 雄二(ga9107)率いるタイガー小隊も次々と発進して行く。
「タイガー1よりタイガーオール、数の上でもこっちが上っす、一機一殺を心がけるように」

 最後に、エースチームが発進シークエンスに入った。
「こちらゲシュンペスト、これより敵新鋭機迎撃に向う。なあに、こちらも新型だ。気を楽に行こう」
 夜十字・信人(ga8235)は、現在このエースチーム『ラグナロク隊』を任されている。またの名を、過去から来た男とも言われている。
 2009年の戦闘に於いてエミタに深刻な損傷を受けた夜十字は、当時ドローム社が密かに開発した『冷凍睡眠カプセル』によって肉体を保管し、131年後の未来に自らの運命を託したのだ。
 蘇った彼は、エミタの補修とバージョンアップ手術によって運命を掴み取り、再び能力者としての復活を遂げた。

「それじゃ行くよ、ホワイトラビット。スノーホワイト発進します」
 続いて雪代 蛍(gb3625)が発進位置に付く。
 彼女の本当の名前はアリス・ユキシロと言い、エミタ技術の発展段階における実験により、遺伝子段階で調整された赤ん坊にエミタを植え付け育てられた人工能力者であった。
 もちろん非人道的な実験である為、これらは今現在に於いてもトップシークレットに属する情報であり、例え軍の高官といえども秘密を知った者は逮捕拘禁された。
 その後彼女は、雪代 蛍と名前を変え、普通の能力者として作戦に参加している。

「さて‥‥、行きますか」
『シャーネーナ』
「‥‥‥」
『ジョーダンダ、アイボウ』
「ヨウヘイ、出ます!」
 石田 陽兵(gb5628)も威勢よく発進する。
 どうやらこの世代の言語端末は、一様にして性格付けに問題があるようである‥‥。

 ラグナロク隊が全機発進の後、エルダの防空システムが稼動。直掩機の護衛も含め、鉄壁の防御態勢を敷いた。

●竜跳虎臥
「ドラゴン1よりドラゴンオール、これより攻撃隊の支援に入る。主目標、敵戦闘機。攻撃機はドラゴンフライトに任す」
 先行する伊藤の小隊が敵を捕捉した。
「ドラゴンオール、マスターアーム点火、オールウェポンズフリー、ドラゴンフライト、ブレイク」
 各武装の安全装置が外され、ドラゴン小隊は散開して迎撃コースへと進入する。
 試作型重力管制システムによって、鋭角機動を描きながら敵機へと接近する伊藤機。
「ドラゴン1エンゲイジ。‥‥FOX2」
 白き乙女より放たれた矢は、吸い込まれるように敵機へと命中していく。
「さすが新型。前の機体とは全く比較にならないな」
 これまでのSES機構とは明らかに違う攻撃力を持っており、通常のミサイルでも一撃でヘルメットワームの撃墜を可能としていた。
「ドラゴン3、4は右方から突破を図る編隊に対応。5、6はその援護」
 ドラゴン小隊は、7番から10番の4機を失ったものの、素早く隊をまとめ上げて周辺のヘルメットワームを次々と撃墜していく。

「どうした? 緊張しているのか?」
 夜十字にそう訊かれたトリガー(gb8359)は、この隊に配属されたばかりのルーキーであった。
 エースチームである以上、彼もまた高い撃墜数を誇る実績を持ってはいるのだが、生来の性格が災いして不安が顔に出るようである。
「いえ、何でもありません」
「まぁ、俺達がちゃんと仕事をすれば問題なく事は終わるさ」
 イスル・イェーガー(gb0925)がトリガーを元気付ける。
「そうですね。早く終わらせましょう」
 トリガーがようやく落ち着きを取り戻した頃、ラグナロク隊も敵ヘルメットワームの部隊と交戦状態に突入した。
「エタニティは新しい希望だ。バグアなんぞの好きにはさせない」
 守上・皐月(gb2240)は正面の敵機にレーザーで攻撃。素早く転進して避ける敵機!
「逃がさん」
 転進先に回りこむ守上機――。
「もらい!」
 ほぼ同じ動きで追従する機体同士の相対速度は、限りなくゼロへと近づく――。外から見れば激しい鋭角機動による空戦に見えても、実際にはスローモーションの世界と言っても過言では無い。
 レーザーに焼かれて爆散するヘルメットワーム。

「そう言う事だ。エタニティに指一本触れさせる訳にはいかないんでな。寄生虫共は早々に帰って貰うぜ」
 Anbar(ga9009)は隊内でも古参の一人であり、宇宙戦闘を知り尽くした卓越した操縦テクニックで次々と敵機を葬って行く。
「俺たち人間は100年以上前から重力慣性など無くとも、貴様達に食らい付いて戦ってきたんだ。同じ土俵の上に立ったからには機体機動でもはや負けなどないと知るが良い!」
 AAMとG放電装置で削りながらヘビーガトリング砲で止めを刺す戦法は、この機体の基本攻撃力と相俟って敵機を紙のように粉砕していく。
「流石ですね。自分も負けませんよ」
 発奮したトリガーが仕掛ける!
 彼の機体は完全にドッグファイトを想定した武装の為、間合いこそが全てである。
 トリガーは守上同様敵機を追従し、自身の名前と同じトリガーを引いてバルカンの雨を降らせていく――。
 そして敵機の尻に火が付いた!
「悪く思わないで下さいね」
「それにしても凄いです。バルカンでワームを落せるなんて夢みたいです」
「まあ、それだけこの機体の性能が今までと全然違うって事だね」
 そう答ながら石田も、同様にバルカンで敵を仕留めた。

「タイガー1よりラグナロク、ここは我が隊にお任せっすよ。ラグナロク隊は作戦通り『蝿』叩きをよろしくっす!」
「了解した。武運を祈る」
 ラグナロク隊は機体を左右に揺らして合図をすると、編隊を組み直して『蝿』と呼ばれた新鋭機へと進路を変えた。
「タイガーオール、マスターアームオン。接敵と同時に散開、敵の突破を阻止する。神の戦士たちに幸福あらんことを――AMEN!」
 三枝の指揮の下、タイガー隊が残りのヘルメットワーム掃討に乗り出す。
「ここから先は侵入禁止っす! タイガー1、FOX2!」
 この時代のFOX2は、旧時代のミサイル区分にはそのまま適用されない。
 重力波さえも捉える追尾性能は全く比較にならず、ジグザグ機動やV字機動で避けようとも目標を確実に捉え駆逐する。
「ここは守り抜くっすよ!」

●ベールゼブブ
「抜かれた‥‥だと」
 ドラゴン小隊は、敵新鋭機と交戦状態に突入したが――、敵はレーダーにも捕捉可能な分身攻撃で小隊機を翻弄し、次々と撃破していった。
 伊藤は空中変形後、回転を加えながらマシンガンを周囲に撃ちまくりながら弾幕を形成。敵機の牽制に成功した為どうにか軽微の損傷程度で事無きを得た。
「どうやら重力管制システムのお陰で命拾いした‥‥」
「ゲシュンペストよりドラゴン1、後は我々に任せてもらおう」
 ラグナロク隊の到着であった。
「ドラゴン1了解。こちらは脱出した部下の捜索と負傷者の救護に当たる」
 伊藤は救難信号のビーコンを頼りに、宇宙空間に放り出された部下達の救護活動へと移行した。
 宇宙戦闘は地上とは違い、宇宙空間に放り出されれば酸素残量分だけしか生きていられない過酷なミッションである。
 その為、戦闘を担当する者達も宙域を確保すれば、即脱出者や負傷者の救護活動を優先して行う様に訓練されていたのだ。
 
「ロスヴァイセか‥‥S-01に乗っていた頃が自殺行為に思える性能だな」
 夜十字は、戦闘能力以外にも、複数の人命救護をも可能可能とする補助シートの広いスペースにも驚きを隠せなかった。
「きゃあ!」
『――!』
 全機が一瞬の出来事に驚く!
 雪代の機体が、例の分身攻撃を受けて損傷を負った。
「蛍ちゃん、‥‥大丈夫?」
 イスルが心配そうに訊いて来る。
「うん、大丈夫。腕の駆動モーターを一部壊されたけど、他には損傷が無いからまだ戦える」
「よし、これより蝿叩きを開始する。各機、神々の黄昏という名に相応しい奮闘を期待する」
『了解!』
「レッドガイストとAmberは付近の敵を掃討してくれ」
 二機を除く全機は、通称『蝿』と呼ばれる敵新鋭機を包囲するフォーメーションを取り、重力管制システムを活かした相互連携によって少しずつダメージを負わせて行く。
「五月蠅い蝿は退治しないと」
 雪代は、さっきのお礼とばかりに敵機に追随、レーザーガトリング砲を撃ち込んで行く。
 敵機は空中変形で機体をロールさせて回避、振り向き様にミサイルを発射!
「負けない」
 雪代も負けじとミサイルを乱射して迎撃を試みる。
「取った!」
 雪代の迎撃ミサイルの回避行動を取る敵機の背後を捉える事に成功した守上は、変形してドラゴンナックルで『蝿』の左肩に牙を立てた。
「いっけぇぇっ! 龍牙天翔!」
 龍の牙で敵に噛み付き、ビームコーティングアクスによる強力な一撃を加える二連コンボである。
 紅蓮の炎を思わせる熱き戦斧が『蝿』の羽を斬り落す!
 敵機は食らい付いた守上ごと激しいロールを行い龍の牙をもぎ取ると、接近したのを幸いとして剣を抜いて斬り付けた!
「ぐっ! やる」
 守上の機体は斧を持った右腕を剣で斬り落とされ、龍牙の左腕も歪に変形しており、両腕が一瞬にして使えなくなった。
 守上の後退に合わせて間合いを更に詰めてくる敵機。
「ムシウタイはやらせないよ!」
 石田が大鎌のリーチの長さを活かして敵機の刃先を引っ掛けて肉薄!
「SESエネルギーを機杭に集中! 最大インパクトでいくぞ!」
『リョーカイ』
 石田機最大の威力を誇る機杭「ヴィカラーラ」が、先程守上が斬り付けた損傷部分に打ち込まれる!
「ドゥルガーの楔という異名は伊達じゃないよ」
 流石の新鋭機と言えど、同じ場所に攻撃を受けて無傷ではいられない。小規模ではあるが爆発音と共に黒煙を上げる敵機。
 だが次の瞬間、敵はサマーソルトキックで石田機の頭を潰して剣を一閃!
「げっ!」
『マエ、テッキ、キテル』
「それぐらい分かってるよ! このぉ!」
 石田はサブモニターに切り替え、大鎌を振るって牽制する。
「がはっ‥‥げほっげほっ!」
『ムチャシヤガッテ』
「まだだ! まだやれる!」
 石田は前回の出撃の時に重症を負い、その時にエミタもダメージを受けていた為、興奮すると吐血する事があった。
 エミタの調整ミスといった事は有り得ないものの、損傷によるダメージの蓄積による不具合は十分に有り得た。
「あの馬鹿っ、体調も考えず突っ込みやがって!」
 イスルは石田の事が心配な分、逆に熱くなってキレた。所謂可愛さ余って憎さ百倍にも似た感情である。
「すぅ‥‥はぁ‥‥っ‥‥ファイヤ!」
 イスル機の放ったスナイパーライフルの一撃が敵機のスラスターの一部を貫く。これによって敵機は挙動を乱し、石田機が態勢を整える機会を与える事に成功した。
「イェーガーさん、すまない」
「ったく、世話掛けさせんなっての」
 イスルは笑顔で優しく怒る。

「こちらAnbar、周囲の雑魚は粗方片付けた」
 場の空気が少し和んだ所に、Anbarから通信が入る。彼と火絵の二人は味方機が全力で戦闘を行えるよう、周囲のヘルメットワーム掃討を行っていた。
 ドラゴン1が救護活動中と言う事も考慮し、その護衛も兼ねた判断であった。
「うも! Anbarん、今日も大漁だったかい~? こっちは撃墜記録自己ベスト更新中さー♪」
 火絵は上機嫌である。
「悪い、多分俺の方が2機多いと思う」
「え”! でわでわ『蝿』を落して、今日のエースは頂きだー!」
 火絵が一気にブーストで敵機に迫る。
「あいあい~い、それでは今日もハピハピ笑顔で~レディ――GO!」
 火絵の猛追に気付いた敵機は下限方向に急降下。火絵の機体もそのまま90度に曲がって落ちる。
『お~い、あんまり飛ばすナヨ。酔いそうダ』
「おうおう! 酔ったら酔い止め薬があるから、後で分けてやるよ」
『なら安心だ‥‥ってマテ』
 再び相対速度が縮まる事でスローモーション世界が到来する。
「蝿だけに蝿が止まって見えそうだ」
『笑えねェぞ、ゴラァ!』
 火絵はスラスターライフルトリガーを引く――。全弾外れたものの、敵機の動きを鈍らせる事が出来た。
 オーバーシュートの瞬間、ソードウィングで切り刻む。
「燃料が残り少ないんでな。これで終わりにしたい。援護を頼む」
 夜十字が迫る。
 イスルとAnbarがスナイパーライフルで敵機を牽制、動きを封じた。
「トリガー、タイミングは合わせる。コンビネーションで撃ち込むぞ」
「了解です」
 夜十字はソードウィングで敵機のもう1枚の羽を斬り落とす――。そこへトリガーがバルカン集中させる!
 完全に挙動を乱して隙を作った敵機に、夜十字の練剣「メアリオン」が止めを刺した――!

●戦い終わって‥‥
 死闘の末新鋭機を葬られたバグア軍は撤退を開始。
「生き残ったか。まだ、現を彷徨うとするかね。こちらラグナロク隊ゲシュンペスト、これより帰投する」

 無事任務を終えたラグナロク隊はエルダに帰還、サロンに集まっていた。
 全員がグラスを掲げ、地球に向って乾杯をする。
「翼を並べて共に戦った古き戦友達に――」
「今を築いてくれた先輩達に――」
『乾杯!』

(END)

018 郷愁を蹂躙する者達

.01 2009 納品物(Catch The Sky ~地球SOS~) comment(0) trackback(0)
本リプレイの公開は、株式会社テラネッツの承認を得ております。
 又、本リプレイの著作権は『水無瀬 要』に帰属しており、知的財産権等は株式会社テラネッツに帰属します。
 本リプレイの一部もしくは全ての転載、複写、翻訳、他サイトへの配信等は禁止させて頂きます。
 (C)Terranetz Co.,Ltd. All rights reserved.

■作者より
 NPCのエステル・カートライト(gz0198)が死亡するシナリオです。
 愛着のあるキャラでしたので、死亡後にショックで寝込んでしまいました……。
 (敵側のキャラクターですので、いつかは倒されるのですが……)
 http://www.wtrpg7.com/mypage.cgi?pcid=gz0198

●参加者一覧
聖・真琴(ga1622)
リュドレイク(ga8720)
柿原ミズキ(ga9347)
秋月 九蔵(gb1711)
鮫島 流(gb1867)
美環 響(gb2863)
アレックス(gb3735)
サンディ(gb4343)

●オープニング本文

<北米・競合地域某所>
 UPC北中央軍が総力をあげて行った『シェイド討伐戦』も、傷は負わせたものの結果としては逃亡を許してしまった。
 この大規模作戦によって『囮』として投じられ、無残にも散っていった名も無き兵士達の数は計り知れない‥‥。
 そして、激戦の中を生き延びた兵士達は、疲れ切って鉛の様に重くなった体に鞭打ち、待っているであろう家族の元に帰る事だけを胸に、撤退を開始していた。

「後少しで家族に会えるな。お前さんも女房をもらったばかりで出撃とは、何と運の悪い奴だと思っていたが、無事に帰れて良かったじゃないか」
 30代の少し年長の同僚が声を掛けて来る。
「まあな。もう生きて会えないと思っていたが、どうにか生き延びた」
 20代前半の若い兵士がそれに応える。軍は階級が全てなので、年の差があってもタメ口である事が多い。
「俺も早く女房と子供に会いたいぜ」
「そう言えば娘さんは今年で幾つだったっけ?」
「今年で5つになったな」
「早いもんだ。よーし、もう一頑張りするか」

 兵士達はそれぞれ家族や友人に想いを寄せ、一人暮らしの者は家に帰ってからあれをしよう、これをしようと思案していた頃――
「おい! あれは何だ!?」
 先頭を歩く兵士が、前方の異常に気付く。
「うん? どうした?」
 もう一人が兵士の指差した前方を凝視する‥‥。
「――! おい、あれってまさか――!?」

 その時! 空気が鳴った――。
「ぐふっ!」
 一人の兵士が鋭利な槍で串刺しになる。
「――! おい、しっ‥‥がはっ!」
 更にもう一人。
「敵襲! 前方にキメラ発見!」
 ようやく前方の異常に全員が気付いたが、時既に遅し。

「上にもいるぞ! 迎え撃て!」
 兵士達は上空で翼を広げているキメラをも発見するが、そこに17~8歳くらいの少女が抱き抱えられている事に、狼狽を隠せなかった。
「おい、何であんな所に女の子がいるんだよ」
「知るかよ! 俺に聞くな」
「来るぞ!」
 前方のキメラが動く!

 正面から向かって来たキメラはケルベロスだった。
「怯むな! 撃て!」
 部隊長が慌てて指揮を執るが、恐慌状態に陥った兵士達は統制が取れず、銃を放り出して逃亡を図る者もいた。
 そこへ狙い澄ましたように、上空から槍が投げ込まれ人型のオブジェが又増える‥‥。
「くそっ! こいつの神経どうなってんだよ!」
「至近で銃弾食らっても平気な顔してやがるぜ!」
 兵士達は勇敢にも至近距離まで近寄って攻撃を加えるが、ケルベロスは全く動じない。
 側にいた兵士を睨み付けると、ケルベロスは鋭利な爪で兵士を八つ裂きにする。
「ひーっ!」
 隣にいた兵士は、同僚の無残な死に様に驚き、奇声をあげてその場にへたり込む。
 そこに無慈悲にもケルベロスの牙が喉元に食い込み、そのまま宙に持ち上げられた。
「だ‥‥ず‥げ‥‥」
 鈍い嫌な音が響いた――首の骨が噛み砕かれたのだ。
「ちくしょう!」
 勇猛果敢に同僚の仇を討とうとする者もいたが、ケルベロスの前足で踏み付けられ、誰からもその勇気を賞賛される事無く無残に散った。

「槍が尽きたわね。天使さん、降ろして頂戴」
 天使と呼ばれたキメラ『バフォメット』は、ゆっくりと少女を降ろす。
「貴様もバグアの仲間か! うおりゃぁぁぁ!」
 少女が着地したと同時に、すっかり狂気に駆られた兵士達が彼女に襲い掛かる!
「何!?」
 少女はそこにはいなかった。しかし彼らが次に少女の姿を見る事は永久に無かったのだ。なぜなら――
「な‥‥ぶは!」
 側にいた者達全員が、一瞬で首と胴が切り離されていたからだ。

「ふーっ。やはり物足りないわね。そろそろ終わったかしら」
 少女は死屍累々と横たわる兵士達の遺体を見て、満足げに口元を緩ませた。
 そこには生ける者は一人もいない‥‥筈だった。

「よくも‥‥仲間を‥‥」
 一人の兵士が最後の力を振り絞って銃口を少女に向け、引き金を引く――
 狙いは違わず少女の背中を直撃するが、無情にも弾丸は『見えない壁』に弾かれた。
「――! あら、貴方凄いわね」
 少女は息も絶え絶えの兵士の下に歩み寄り、無防備にもその場に座り込んだ。
「貴方がどれだけラッキーか分かるかしら? この状況下で生き残って、更に私に一矢報いてまだ生きてるのよ」
「‥‥はぁ‥‥はぁ」
 兵士は少女を気力だけで直視し、目に焼き付ける。
「‥‥いいわ。貴方の強運に免じて命だけは助けてあげるわ。生きてメッセンジャーを務めて貰えるかしら?」
「‥‥コニー‥‥」
 兵士は妻の名を呟いた後、意識はやがて薄れ暗闇に包まれた‥‥。

 ――それから数日後

 UPC特殊作戦軍本部であるラスト・ホープに北中央軍より正式な依頼が提示された。
 内容は単純明快で――
 競合地域で撤退兵達を無残にも殺害している『狂人』に正義の名の下に鉄槌を下せ! という内容である。

 依頼の内容から、この非道な行為に対して軍は相当憤慨している事が察せられた。
 なお、生き残った兵士の証言により、少女の名前が判明した事も付け加えておこう。
 エステル・カートライト(gz0198)――それが依頼にあった『狂人』の名であった。

●リプレイ本文

●血の池に佇む少女
 能力者達が現場に到着するまでの間、戦車隊を含む付近の部隊も援軍として駆け付け、戦闘は激化の一途を辿っていた。
 しかし戦車と言えども、エステル・カートライト(gz0198)とキメラ達の機動性を抑止する事は叶わなかった。

「助けて! 母さん」
 母親の名を呼んだ若い兵士は、その直後ケルベロスに頭ごと食われ――
「降参だ。命だけは助けてくれ!」
 運悪く迎撃を指揮した将校は、武器を捨てて両手をあげたが容赦無く首を刎ねられた。
「弱い人は嫌い‥‥進化の妨げにしかならないもの」

 ――全てが終わった時、一面は血の海と死体の山を築いていた。
 炎上する戦車群と焼け焦げた乗員達の放つ異臭――阿鼻叫喚の地獄とは、正にこのような光景を言うのであろう。
 その中でエステルは全身を返り血で赤く染め、2体のキメラを従え佇んでいた。
 周りに話し相手がいない時に様々な思考を巡らせるのは、病院のベッドで過ごした彼女の癖である。
(「昔の私は毎日が怖かった‥‥眠ってしまったら、もう二度と目覚めないとさえ思っていた。でも‥‥今は生きる喜びを知ってしまったわ‥‥」)
 エステルは強化人間になった事を心から喜んでいた。嬉しくて嬉しくて仕方が無い。
(「そして、私が最も生きている事を感じられる相手――それがまだ来ない」)
「いつまで待てば良いのかしら?」
 キメラ相手に質問してみるが、答えが返ってくるはずも無い――。

 更に待つ事数分――。数台の軍用ジープとAU‐KVが、こちらに向って来るのが見えた。
「ようやく来たわね。彼らはいつも私を待たせるわ」

 到着した能力者達の目に入ってきたのは、凄惨な現場の風景であった。
「ひどい‥‥」
 サンディ(gb4343)は、あまりの惨状に目を背けそうになる。
「許せない‥‥いや、許すわけには行かない」
 柿原ミズキ(ga9347)は、拳を握り締め怒りを露にする。
「エステル・カートライト! ここでケリを付けるぞ!」
 アレックス(gb3735)の怒りは頂点に達し、憤怒の炎を纏ってエステルに挑みかかる!
 エステルはアレックスの勇み足を軽くステップで交わして後方に退き、キメラ達に指示を出す。
「貴方達の本当の実力を見せてあげなさい!」

「作戦通りキメラは僕達で抑えるよ。二人とも気を付けて」
 レインボーローズを手に余裕の笑みを見せながら美環 響(gb2863)は、アレックスとサンディに月桂樹の花を得意の奇術で出して見せる。
 花言葉は『勝利』――。
「さあ、派手にそして優雅に行きましょう!」

「いけっ!」
 エステルの指示でキメラ達が一斉に跳躍! 能力者達に襲い掛かった!

●ケルベロス戦
「ほら来い駄犬! 悪い噛み付き癖を直してやる」
 秋月 九蔵(gb1711)が小銃でケルベロスを挑発して誘い出す。
 ケルベロスは眼前の敵に全力で挑めという主の命に従い疾走。時折跳躍を繰り返しては、鋭利な牙と爪で果敢に攻撃を加えに行く。
「がはっ!」
 挑発していた九蔵が体当たりで吹き飛んだ。
 それを見た響は銃撃を加えて注意を引き、柿原が肩を貸して救い出す。
 そしてエステルとの距離が十分離れた辺りで、3人は散開しつつ迎撃態勢を取った。
「行くよ二人とも」
 まずミズキが先陣を切る!
 月詠を構え一気に間合いを詰め寄り、ケルべロスの後ろ足に上段から切り下げ、更に片手で切り上げる!
「まだ!」
 再び上段に持ち上がった剣を突き立てる!
 ケルベロスは体を捩じって前足で反撃。
「くっ!」
 前足の爪は獲物を確実に捉え、ミズキは受ける事が出来ずに弾き飛ばされた。
「痛みを感じないのか!? ‥‥こいつ」

「あの爪は厄介だな」
 九蔵は小銃でケルベロスの前足に的を絞って攻撃を加える。
 響もガトリングシールドを構えて火線を集中させる。
 ケルベロスは、左右に跳んで回避するが、後ろ足のダメージで動きが鈍い。
 やがて前足に力が入らなくなり前方に突っ伏す。
 そこへ斬り付けようと近づいて来たミズキに火炎を吐いて牽制、周囲にも広げて炎の結界を張った。
 そしてケルベロスは、火炎で巧みに3人を牽制しながら、態勢を整えようと前足に力を加える。
「そうはさせない」
 九蔵は、更に前足に攻撃を集中させる。
「銃は使いたくはないけど、手段は選んじゃいられない‥‥番犬は地獄に帰れ」
 ミズキも炎で接近出来なくなった為、クルメタルP‐38で九蔵と呼応して前足に攻撃を集中。
「この熱さでは、僕のアリスが枯れてしまいそうだ」
 アリスとは響の持つレインボーローズの事である。

 3人の銃弾を一点に受けたケルベロスの前足は、左右とも完全に吹き飛んでしまった。
 巨体から止め処も無く流れ出る血は、3人を忽ち真っ赤に染め上げる。
「今回の戦いは、あまり優雅とは行かないようだね‥‥‥」
 激しい戦闘で返り血と土埃に塗れていた響は、奇術でハンカチを取り出すと顔を拭い、気持ちを入れ替える。
「これで決める!」
 ミズキの言葉に、響は再び奇術でハンカチを仕舞い銃撃を再開。九蔵もミズキに親指を立てて銃撃でサポートする。
 大量出血によってもはや立ち上がる力を失ったケルベロスに、ミズキは耳の穴から頭部に向って剣を突き入れ止めを刺す。
「安らかなる眠りを汝に与えん事を‥‥」
 息絶えたケルベロスに、響はレインボーローズの一輪を手向け、祈りを捧げた。

●バフォメット戦
 バフォメットを引き受けた聖・真琴(ga1622)、リュドレイク(ga8720)、鮫島 流(gb1867)の3人は、思わぬ苦戦を強いられていた。
 打たれ強いだけの『木偶の坊』であったバフォメットは、闇弾と光弾による知覚攻撃で能力者達を上空より翻弄していたからだ。
「剣では攻撃出来ないな‥‥」
 鮫島は、グラファイトソードを一旦仕舞い、小銃「ルナ」に持ち替えた。
 リュドレイクと鮫島の二人掛りで、上空のバフォメットに攻撃を加える。また、リュドレイクも弾幕を張る為に、武器をドローム製SMGに持ち替えていた。
「これでどうにか落として、聖さんに攻撃を繋げたい所です」
 敵が上空にいる為、聖は得意の接近戦を生かせず遊兵と化していた。

「閃光手榴弾を使って目を潰します。合図と同時に目を覆って下さい」
 そう言って鮫島は、携帯バッグから閃光手榴弾を取り出しピンを抜き、待つ事暫し――。
 閃光手榴弾は発火までに時間が掛かるので扱いが非常に難しい。
「今だ!」
 掛け声と共にバフォメット目掛け、閃光手榴弾を投擲!
 弧を描いて飛んで来た『謎の物体』にバフォメットは警戒したが、目は無防備であった。

 炸裂する閃光にバフォメットの目が潰される!
『ブフォッ!』
 目が見えず、出鱈目に光弾を撃ちまくるバフォメット。
「落ちろ!」
 再び弾幕を浴びせる二人――。
 バフォメットは重力の感覚と落下による風圧で天頂方向を掴み、五感の全てを使って態勢を立て直して高度を上げる。
 強力な眩惑はされたが失明にまでは至っていない為、バフォメットは上空で視力の回復を待った後、移動を開始。 
「あ、逃げンじゃないよ!」
 3人はすぐさま追跡に移った。恐らくバフォメットはエステルの所に向った筈‥‥。
(「エステル‥‥アンタに同情はするよ。けどな‥‥何やっても許されるなンて存在は、この世にゃ無ぇンだ」)
 聖は、対エステル戦へと気持ちを切り替えた。

●疾風迅雷!
 エステルと対峙したアレックスとサンディの二人は、『迅雷』を使ったコンビネーション攻撃を行ったが――、失敗に終わった。
 迅雷は『地を走り抜ける』スキルである為、空中に飛んでは効果が消える。
 しかし地上で使う分には有効である為、フォーメーションを切り替え対応していた。
「アレックス、もう一度いきます!」
「おう、何度でもやってやるぜ」
 サンディはアレックスの前に立って剣を構える。
「何度やっても同じだわ。生物の動体視力はね、自らの動く早さに比例するものよ」
「疾風!」
 エステルの言葉には耳を貸さず、サンディは疾風を発動させる。
「迅雷!」
 サンディはエステル目掛け一気に間合いを詰め寄る!
 そしてアレックスも同時に動く! ――走輪走行の利点を生かし、MAXの加速力で一気に迫る。
「はっ!」
 サンディは刹那で剣を突き立てるが、回避される。
「アレックス!」
 竜の瞳をも使ったアレックスのランスが、回避先のエステル目掛けて貫いた!
「ちっ!」
 アレックスは手応えで逃げられた事を知る。――次の瞬間、エステルの大鎌がアレックスの首に掛けられる。
「不用意に後ろに下がると、首が落ちるわよ」
「くっ‥‥」
 その時、少し離れた場所で閃光が光った――鮫島がバフォメットに投げた閃光手榴弾の光だ。
「何‥‥?」
 エステルの注意が逸れた瞬間、アレックスは体当たりで起死回生を狙う。
「きゃっ!」
 一瞬の虚を突かれ、転倒するエステル。
「サンディ!」
 呼ばれたサンディは、再び迅雷、刹那のコンボで即応!
 回避が間に合わないエステルは、急所を外すだけで精一杯だ。

「くっ、やるわね‥‥ふふ」
 エステルが突然笑い出したので、アレックス達は困惑する――。
「何がおかしいんだ?」
 アレックスは、時間稼ぎも含めて少し話をしてみる事にした。
「嬉しいのよ」
「嬉しい‥‥?」
 サンディも訊いて見る。
「私は貴方達と戦う事が楽しくて仕方ないわ。昔の私なら、こんなに動き回る事は出来なかったもの」
「‥‥気持ちは分からなくもないが、お前のやって来た事は正直赦せねぇ」
 エステルは話す間に少し距離を取った。受けたダメージは意外に大きく、足元がふらつく‥‥。
(「誤算だったわ‥‥この状況から自力で逃げ切る事は無理そうね」)
 彼女はジーンズのポケットの中にある発信機のボタンを押した。

●決着!
 アレックスとサンディ――二人の連携攻撃は、エステルの消耗を早めていった。
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
「どうした? 息があがってるぜ」
「貴方もそろそろ終わりです。エステル」
 サンディが仕掛けようとした身構えた所に、黒い影が割って入った。
「――!」
 バフォメットは光弾を発射してアレックス達を牽制し、エステルを抱えると距離を取って後退する。
「助かったわ天使さん。撤退するわ」
 バフォメットが漆黒の翼を広げ、飛び立とうとした瞬間! 真紅のトライバルが眼前に現れ、それを阻止した。
「逃がさないよ!」
 瞬天速で逸早く到着した聖のキアルクローがバフォメットの胸を貫く!
『グォッ!』
「天使さん!」
 バフォメットから降りたエステルは、大鎌を振るい聖を牽制しようとした所を、銃撃のカウンターを受けて立ち止まる。
「天使さん、上空にいて頂戴」

「すまない、待たせた」
 バイク形態のAU‐KV『虎徹』の後部に、リュドレイクを乗せた鮫島らが追い付いて来た。
 そして別方向からケルベロス班も合流してきた。
「エステル‥‥これ以上罪を重ねる前に、貴方をここで倒します」
 8人の能力者に包囲されたエステルに、逃げ場は残されていない。
 リュドレイクと聖、サンディの3人は、閃光手榴弾の準備が出来た事を目で合図しあい、アレックスに頷いて知らせる。
「エステル!」
「何よ?」
 アレックスは照明銃を構えてエステルが振り向いた瞬間発射した。
「その手は食わないわ」
 エステルは避ける。そして立ち止まった足元から閃光が光った――!

 やがて閃光が収まり、目を開けたがエステルの姿が見えない‥‥。
「上!」
 影が差した事でエステルの位置が判明! 彼女は閃光が終わって目を開ける瞬間に高くジャンプしていた。
 上段から大鎌を振りかぶり! アレックスに斬り付ける!
「ぐっ!」
 アレックスは槍で受け止めたが、鎌の切っ先が肩口を貫かれ片膝をつく。
 ミズキがソニックブームで牽制し、離れた所をリュドレイク、響、鮫島らの射撃で、エステルは後方に退いた。
「失敗か‥‥?」
「いや、片目は潰せたみたいだ」
 響はエステルが右目を瞑っている事に気が付く。
「この機会を逃す訳にはいかないです」
 リュドレイクが仕掛け――、銃で牽制しながら、鬼蛍で接近戦を挑む。
 エステルはそれを回避して反撃。続いて聖が瞬天速で割って入る。
「ンなろ!」
 限界突破と疾風脚を使った聖は、エステルにスピードで挑む!
 接近戦が展開されている間、銃を持った能力者達は散開して牽制と援護に回る。
 エステルが負傷していなければ、聖のスピードにも十分に対応出来た筈だが、既に彼女の動きは陰りを見せ始めていた‥‥。
「遅いよ、アンタ手ぇ抜いてンじゃない?」
 聖の爪が肩口を貫き、回し蹴りで吹き飛ぶエステル。
「アレックス!」
「おう! リミッター解除‥‥ランス「エクスプロード」、オーバー・イグニッション!」
 エステルはよろよろと立ち上がる‥‥。
「貫け!」
 執念と怒りの炎の槍がエステルの急所を貫いた!
「ぐふっ!」
 突き刺さった槍が抜かれると同時に、大量の血が噴出す‥‥。それは誰が見ても致命傷であり、まず助からない事を確信させるものだった。
 アレックスが止めを刺そうとした矢先に、黒い弾丸の雨が能力者達に降り注ぐ。――上空にいたバフォメットだ。
「くそっ!」
 アレックスは後方に跳び、他の能力者達も下がる
「天使‥‥さん」
 バフォメットは、素早く主人を抱え上げると、上空へと飛翔を開始。
「逃がすか」
 リュドレイクは貫通弾を装填したカートリッジに交換し、バフォメットに照準を合わせ発射した。
 弾丸は首筋を貫通したが、構わずバフォメットは飛び立つ。
 もう一度狙おうとしたが、九蔵がそれを制した。
「彼女は‥‥恐らく助かりませんよ‥‥」

●エステル
 ――バフォメットは胸と首筋から血を流しながらも、懸命に基地を目指して飛行していた。
「ねえ‥‥天使さん、海が‥‥みたいわ」
 エステルの願いを叶えるべく、バフォメットは海岸に向けて進路を変更した。

 暫くして海が見えて来たので、エステルは沖を目指すように指示を出す。
 途中、海鳥達が彼女達を出迎えたが、すぐに逃げていった。
「天使さん‥‥の‥‥顔が‥‥怖いから‥‥ょ‥‥」
 エステルは虫の息だ。 
 彼女を抱えていたバフォメットも、限界に達し高度が落ちていく。
 そして、ついには力尽きて海中に落ちていった。

(「きれい‥‥」)
 エステルが最後に見た光景――それは陽光に照らされてきらきらと輝く水面であった。
 それを掴もうと、そっと手を伸ばすエステル‥‥そして全ては闇に包まれていく――。

●鎮魂
 数日後、本部でエステル・カートライトの死亡が正式に報告された。
 依頼に参加した能力者には、懸賞金が山分けされ、さらに戦果に応じた額の追加報酬が上乗せされた。

 ――その日、L・Hの小さな丘の上でトランペットの音色が響き渡った。
 それはどこか物悲しさを感じさせる、悲哀に満ちたレクイエムであった‥‥。

(END)

017 【Woi】白衣の魔女救出戦

.01 2009 納品物(Catch The Sky ~地球SOS~) comment(0) trackback(0)
本リプレイの公開は、株式会社テラネッツの承認を得ております。
 又、本リプレイの著作権は『水無瀬 要』に帰属しており、知的財産権等は株式会社テラネッツに帰属します。
 本リプレイの一部もしくは全ての転載、複写、翻訳、他サイトへの配信等は禁止させて頂きます。
 (C)Terranetz Co.,Ltd. All rights reserved.

●参加者一覧

ゲシュペンスト(ga5579)
Anbar(ga9009)
柿原ミズキ(ga9347)
白皇院・聖(gb2044)
リヴァル・クロウ(gb2337)
ドニー・レイド(gb4089)
水無月 神楽(gb4304)
テト・シュタイナー(gb5138)
安藤ツバメ(gb6657)
御津川 千奈(gz0179)NPC

●オープニング本文

 現在、UPC北中央軍を中心とした大規模作戦(略称【Woi】)が開始されており、五大湖周辺の各地域でも激戦が繰り広げられていた。
 それらは市街地戦のような比較的大きな戦闘もあれば、村落単位での小規模な攻防戦に至るまで様々であった。
 軍総司令部の立案した【Woi】は、シェイドやステアといったバグアエース機の撃破を主目的とした、UPC北中央軍の総力をあげた『囮作戦』である。
 構想は大胆にして緻密を極めたが、囮作戦である以上、敵を引き付ける役割を担った多くの兵士達にとっては、凄惨を窮めた激しい戦闘が随所で行われていた。

<北米・五大湖周辺某所>
「くそ! 援軍はまだなのか!?」
「落ち着け! ヤケになったら敵の思う壺だぞ!」
 軍曹の階級章を付けた兵士が、焦る一等兵を嗜める。
「ちっ! キメラ野郎め! くたばりやがれ!」
 一等兵は叱責の怒りも加えてキメラの群れにありったけの弾丸をくれてやる。

 第23歩兵小隊――これが彼らの部隊名である。
 詳しい所属については任務上の秘匿性や軍規による機密に抵触する恐れもある為控えるが、バズーカ砲や対戦車ライフルといった武装である事から、対キメラ戦闘部隊である事は想像に難くない。

「ぐあぁぁ!」
 1匹のキメラが兵士に牙を立てる。
「――! てめぇ、離しやがれ!」
 側にいた兵士がキメラの胸に3発、更に至近からこめかみに2発の弾丸を撃って引き剥がす。
 剥がされたキメラを投げ捨て、側にいた全員でありったけの弾丸を撃ち込む!
 キメラはフォースフィールドに守られてはいるものの、やはり集中攻撃は痛いらしく後方に逃げた。
「おい! 大丈夫か!?」
 首筋から大量の出血――応急処置で止血はしたものの、一刻も早く輸血しないと命に係わる。
 小隊員は当初20名いたが、既に8名が戦死。戦死者の中には小隊長も含まれていた。
 残りの12人の内5名が重態の為隊を維持出来ず、援軍を要請したのだが未だ援軍が来る気配さえ無かった。

 第23歩兵小隊は、郊外の一部地域を占領している小型キメラ排除の命令を受け任務に就いた。
 しかし小型と言う情報は誤りであり、大型キメラ数匹を含んでいた為、初戦で小隊長を含む名もの損害を出した。
 部隊は負傷者を収容させる為に避難の終わった民家に立て篭もり、バリケードを張って応戦――現在に至っている。

 キメラの大群が包囲網をじりじりと狭めて来る。
「死なばもろとも‥‥弾が尽きるまで戦い抜いて死んでやるぜ」
 軍曹は覚悟を決め、正に突撃の合図をしようとしたその時――!

 突如キメラの軍勢が爆炎に焼かれた!

「なんだ!?」
 軍曹は双眼鏡で現状把握に努める。
「――! おっ、援軍の到着のようだぜ!」
『ヒャッホウ! やったー!』
 一同が奇声をあげて喜ぶ。
 援軍に駆けつけたのはリッジウェイ1機と護衛のKV2機の3機編成であった。援軍としては規模が小さい気もするが、キメラ相手であれば、KV3機でも十分ではあった。

 リッジウェイから一人の傭兵が降りて来る――15歳くらいのポニーテールをした白衣の少女である。
「皆さん、大丈夫ですか? 司令部の情報網を通じて負傷者の救護に参りました」
「そうか、手間掛けてすまねぇな。俺はミラーだ。隊長が戦死されたんで、俺が一応指揮を任されている」
「はじめましてミラー軍曹、御津川 千奈です」
 御津川 千奈(gz0179)は初対面の軍曹に対し、丁寧に挨拶を述べた。
「挨拶はそれくらいにして、急いであいつらを野戦病院に運ばねぇとな」
 軍曹の視線の先に重傷者が数人いるのが目に入る。
「分かりました。では私のリッジウェイのベッドに運んで下さい。練成治療で応急処置をします」
「おう、頼まぁ」

 護衛のKV2機は傭兵ではなく、UPC軍の機体である。
 援軍の要請を受けた司令部が派遣を予定していた機体であり、千奈とは偶然にも途中で合流する形となったのだ。
 彼らの任務はキメラを掃討して歩兵部隊の脱出路の確保する事であった為、千奈の機体の護衛は任務に入っていない。
「おい、どうする? 任務には含まれてないが、こいつはいい的だぞ」
 千奈のリッジウェイをモニター越しに顎で杓り、僚機に訊ねてみる。
「傭兵が勝手に付いて来たんだ、俺は知らんよ。それよりも油断してるとKVでも危ないぞ!」
 僚友は数体のキメラに張り付かれており、それどころではない状態である。

「ちっ、こっちの護衛は無しかよ‥‥。おいお前ら! わざわざ来てくれた嬢ちゃんの為にもうひと働きするぜ!」
 軍曹の一声で第23歩兵部隊はぐるりと円陣を組み、千奈の機体の護衛に回る。
「やつらを近づけるな!」
『了解!』

 激しい銃撃戦の最中、それは突然襲い掛かった!
「ぐはっ!」
「――! おいどうした! がはっ!」
 相次いで2機のR-01改が地に伏す。
「なんだ!?」
 重厚な地響きを立てながら巨大な姿を現したそれは――『レックス・ワーム』(別名・REX-Canon)であった。

「おい、動けるか?」
「だめだ、今ので動力部を撃ち抜かれている」
「油断した‥‥脱出して歩兵部隊と合流するぞ」
「分かった」
 KVのパイロット2名もSES装備搭載武器を持って歩兵部隊と合流するが、相手がワームとなると話は違って来る。
「嬢ちゃん――いや、先生と呼ぶべきかな。ワームが現れてKVが全滅しちまった。すまんが急いでここを離れたい」
「分かりました」
 千奈は練成治療を中断し、リッジウェイを走らせた。負傷者を乗せられるだけ乗せて、動ける者達は片手で機体に掴まり、追って来るキメラ達に銃撃を加える。

 ――突然リッジウェイが急停車!
「っとっと。‥‥ん? おいおいマジかよ!?」
 軍曹は悪夢でも見る目で前方を見据える――そこには更にもう2匹のレックス・ワームが立ち塞がっていた!

●リプレイ本文

●魔女の騎兵隊到着
「後ろに下がります!」
 外部スピーカーでそう宣言すると、御津川 千奈(gz0179)は、前方のレックス・キャノン(以降RC)を避けるべく転進を図る。
 前門の狼、後門の虎という状態であったが、後ろの方がまだマシに思えた。
 転進するリッジウェイに、RCのキャノン砲が襲い掛かかる!
「きゃっ!」
「全員機体から離れろ!」
 リッジウェイに掴まっていた第23歩兵部隊は、全員降車して散開する。リッジウェイの被弾は、彼らにとっても死を意味している。

 幸いにも大破は免れたが、機体の一部をビームで抉られ黒く煤ける。
 どうにか初撃の危機は脱したものの、依然状況は最悪を極めていた。
「ごめんね」
 千奈は申し訳無さそうに断ると、キメラ群の壁をガトリング掃射によって切り開く。
 彼女は星型キメラ『スターマイン』との経緯から、心底キメラを憎めないのだ。

「オラオラ! どきやがれ!」
 一方第23歩兵部隊は、そんな千奈とは異なり、憎しみと怒りを込めてありったけの火器をキメラに撃ち込む。
 距離の詰まったRCは、キャノン砲を使わずリッジウェイに急接近――鋭利な爪で機体を引き裂きにいく。
 更に2体のRCにも追い付かれたリッジウェイは、3体の肉食獣に囲まれた子羊状態となる。
 1体がリッジウェイに牙を立てると、残り2体も一斉に噛み付いた。

 金属の軋む嫌な音が戦場に響き渡る。
 千奈は至近からガトリングの雨を降らせようとしたその時、待ちに待った無線がコクピット内に響く。
「そこの医療用LM-04、聞こえるか。これより支援する」

●新たなる脅威!
「あ、皆さん救援隊が来ましたよ!」
 千奈は礼を述べるのも忘れて乗員達に援軍が来た事を知らせた。
「その声‥‥御津川千奈、君か?」
 通信を送ったリヴァル・クロウ(gb2337)は、リッジウェイのパイロットの声の主に聞き覚えがあった‥‥。
「千奈、そっちは大丈夫? それと部隊の方も無事?」
 柿原ミズキ(ga9347)も、その声が千奈本人であると確信。部隊の安否と現状を訊ねる。
「20名の内戦死者が8名‥‥。残り12名の内重傷者が5名です。今の所全員無事です」
「了解した。遅くなって済まない。魔女の騎兵隊のご到着だ!」
 御津川 千奈がいつも白衣姿に黒い三角帽子を被った風貌から、ドニー・レイド(gb4089)が即席で付けた部隊名であったのだが、便宜上そのまま部隊名として採用された。

「皆さん、救援ありがとうございます」
 千奈は手短に礼を述べるとブーストを全開! 盾で押しのけるようにして包囲網を突破。
 機体が離れた事を確認した魔女の騎兵隊は、作戦通りRC1体に対し一斉攻撃を開始!
 最も手前にいたRCが、ミサイルポッドと銃弾の雨に蜂の巣となる。

 攻撃を受けたRCは咆哮をあげると、獰猛な牙を剥いて緑色の巨体を揺らしながら魔女の騎兵隊目掛けて突進して行く。
「追撃されても面倒だ。目の前の敵は全部蹴散らす!」
 そう言ってゲシュペンスト(ga5579)はガトリング砲を発射。しかしRCは驚くべき跳躍力で、ゲシュペンストのリッジウェイを飛び越えた!
「な‥‥に!?」

「ここは私達におっ任せー!」
 本家元気少女の安藤ツバメ(gb6657)と水無月 神楽(gb4304)のA班が前に出る。
 千奈も本来は元気少女なのだが、あちらは猫の皮を何十枚も被っている為、周囲には『大人しい子』で通っていた。
「水無月神楽、いざ参る!」
 名乗りをあげた水無月は、安藤の一撃を助ける為にバルカンで堅実に支援。
「いっけー!」
 安藤は特殊能力を使用、ブーストで一気に詰めてレッグドリルで膝蹴り! ――しかし避けられる。
「なら、これでどうだ!」
 更にホールディングバンカーで首根っこを押さえ込み、杭を一気に打ち込む!
 尻尾を激しくばたつかせて最後の抵抗を試みるが、程無くしてRCは力尽きた。
「よし! まずは作戦通りかな」

 3体の内1体のRCを撃破した魔女の騎兵隊は、4班に分かれて歩兵部隊の収容準備に取り掛かった。
 友軍機が敵を引き付けている間に、3機のリッジウェイに歩兵を収容して突破を試みる――という作戦である。
「これ以上殉職者を出したくねえからな。すまねえが世話になるぜ」
 第23歩兵部隊は多くの負傷者を抱えている手前無理はせず、素直に救援部隊の指示に従った。
「申し訳ありませんが、お二人共収容させて頂きます」
 白皇院・聖(gb2044)はUPC軍能力者に対し、丁寧でありながらも強い意思を以って指示に従って欲しいと要求した。
 当初は対キメラ戦の戦力として当てにしたが、RCが予想以上の強敵であった為に急遽方針を変更したのだ。
 当然二人の能力者は固辞したが、被弾したKVの破片が側を掠めた事で状況は一変、不承不承ながらも従うしか無かった。

「いたたっ、やったなぁこいつ!」
 被弾したKVとは、現在B班と合流して戦闘を行っている安藤の機体『ガンバイザー』であった。
 防御面を強化したF‐104改バイパーであるが、RCの攻撃はそれを上回る破壊力でガンバイザーを圧倒する。
 先程倒した『手負いの敵』とは明らかに勝手が違っていた。

「こちら白皇院、全員収容完了です」
 少々悶着もあって収容に手間取ったが、全員の収容完了を知らせる報が届いた。
「友釣り戦法だとしたらすぐに敵の増援が来る。急ぐぞ!」
 ゲシュペンストはブリーフィングで出た『罠』の危険性を懸念していた。
「確かに生身相手にレックス・キャノンを繰り出すなんて不合理な事をする以上、こちらの援軍を釣り出して殲滅する意図でもあるのかも知れないな。警戒しておくに越した事はないしな」
 Anbar(ga9009)の骸龍は、『特殊電子波波長装置γ』によるジャミングで友軍機を支援しており、逆ジャミングによる索敵も行っていた。
 噂をすれば影――と言うが、レーダーに光点が3つ捕捉された。
「どうやら推測が当たったようだよ‥‥」

 増援部隊は全部で3機。有人タイプのRC1機と無人ゴーレムが2機である。
 無人タイプとは明らかに動きの違うRCが、リッジウェイに襲い掛かる。
 挨拶代わりの拡散キャノン砲によるシャワーを浴びせられ、3機のリッジウェイは自慢の装甲を焦がされた。
 一撃で大破する事は無いが、流石にこれ以上の損傷は予断を許さない。
「やることが多いな、こりゃハードな仕事になりそうだ‥‥」
 ディフェンダーを横一文字に構えたリッジウェイは、盾を前面にしてブーストで加速! 敵中央目掛けて突撃を敢行――所謂『騎士の一騎打ち』戦法である。
 有人機はそれを軽やかに避け、無人ゴーレムも特殊能力で回避力を一気に高め、ひらりと交わす。
「やるな」
 リッジウェイは、すぐさま機体をスライドさせて転進。再び突撃モードで敵機を猛追する。
「この先は通行止めだ」
 突撃を回避した有人機の前に、リヴァルのシュテルンが立ち塞がる――。

●それぞれの戦い
 D班が有人RCとの戦闘を行っている最中、他の班でも激戦が繰り広げられていた。
「何ともまぁ、御大層な部隊で襲ってきたもんだな。本命は俺様達か? そんなに喧嘩を売りてぇんなら買うぜ!」
 B班のテト・シュタイナー(gb5138)は、レーダーに映った3機の増援部隊を見て激昂し、眼前に迫る敵RCに対して3.2cm高分子レーザー砲による知覚兵器で応戦。
 体色を瞬時に赤く変化させたRCはその一撃に耐え、強靭な顎の力で噛み砕こうと牙を剥いた。
 彼女のフェニックスは高い命中力を誇っていたが、回避力では敵の方が一枚上手であった。鋭利な牙が鳳凰の翼に食い込んでいく。
(「これが‥‥噂に聞く抵抗耐性か」)
「援護する!」
 ドニーはフレキシブル・モーションを発動させてRCに急接近! ストライクレイピアで刺し貫こうとした。
 しかし、いち早く気配に気づいたRCは、素早く回避行動を取り、振り向き様にキャノン砲を見舞う!
「くっ! こいつは厄介だ」
 距離が離れた所を、透かさず水無月がバルカンで牽制を入れてフォロー。
 物理攻撃を受けたRCは、再び緑に体色を変化させる。
「ちまちまと色を変えやがって‥‥信号機かテメェ!」
 テトは機杖「ウアス」でRCの脳天を叩き割ろうと上段から振り下ろした。
 RCは損傷覚悟で左腕を振り上げてそれを受け止め、至近距離からキャノン砲をロックさせる。
「ちっ、なめんな!」
 空中変形スタビライザーにより『復活の灰』を得た鳳凰は再び舞い上がる。
 オーバーブーストによりSES‐200エンジンが轟音を上げ、運動性能を極限にまで高めたフェニックスは、間一髪でキャノン砲を回避した!
「私を忘れて貰っちゃ困るよ!」
 テトが離れた瞬間、安藤の『ガンバイザー』が急接近! 初撃でまんまと交わされたレッグドリルを見舞った。
 絶妙なタイミングが功を奏し、見事に膝蹴りが決まる!
 怯んだ所を再度ドニーのアヌビスが仕掛ける。
「そろそろ終わりにしよう」
 体色は緑ではあったが、有効打の連続でRCも弱っていた。ストライクレイピアは深々とRCの胸元に刺し貫く。
「今だ! 一斉射撃!」
 ドニーが離れた瞬間、間髪入れずに4機による一斉攻撃が加えられる。
 物理攻撃と知覚攻撃のミックス攻撃によって、体色が明滅する様に次々と変わっていく。
 凄まじいラッシュ攻撃の前に、RCは断末魔の咆哮を上げて倒れた。
「まずは一つってか。この調子でサクサク行くぞ?」

 一方、キメラ軍勢を含むRC迎撃を担当したC班は、初手でAnbarの骸龍が深手を負い、苦戦を強いられていた。
「まさか、これ程までに命中精度の高いキャノン砲とは思わなかったな」
 高い回避能力を誇る骸龍であったが、RCの命中力は更に上を行く。
「とにかく脚を狙って機動力を封じないと」
 ペアを組んだ柿原のフェニックスは、スナイパーライフルD‐02でRCの脚を狙う。
 キメラの大半は序盤の戦闘で多くを殲滅しており、既に脅威となるキメラは殆どいなかった。油断すれば危ないが、逆に油断さえしなければどうとでもなる相手であった。
 Anbarは一旦接近戦を避けて、強化型ショルダーキャノンによる遠距離射撃に切り替え柿原の援護に回る。
 RCのキャノン砲は脅威ではあるが、ロックオンの体勢に入る瞬間を見逃さなければギリギリで直撃は避けられた。
(「Anbarの機体損傷はかなりやばい‥‥ボクがしっかりしないでどうするんだ」)
 柿原は心の中でいつも気弱な自分と戦っていた。覚醒時に名前を呼び捨てにする事で弱気な自分を奮い立たせていた。
「接近してヒートディフェンダーで直接攻撃を狙おうと思う。Anbar君、一瞬で良いから隙を作ってくれ」
 柿原は武器を持ち直して斬り込むタイミングを計る。
「了解だ。助かる命をむざむざ散らせるのも後味が悪いからな。ともかく出来る限りの事はして、きっちり仲間を助け出そうじゃないか」
 全身にコーランの一節が浮かび上がり光輝くAnbarは、その神秘的な琥珀色の瞳をモニターに映し出された柿原に向けて快諾した。
「来るぞ!」
 RCが再びキャノン砲の発射態勢に入る。
 Anbarは危険を承知でブーストを使って一気に前進し、ヘビーガトリング砲で脚部を狙う。
 RCはバランスを崩してロックオンを解除。今度はAnbarに照準を替えた。
「よし! 行くよ不死鳥!」
 柿原はこの一撃に全てを賭けるべくオーバーブースト! 更に空中変形スタビライザーをも使用して一気に斬り込んだ!

 一撃! 二撃!
 RCの脚部が強烈なスパークを起こして黒煙を上げる。行動値の全てを使い切ったものの、RCの脚部を完全に破壊出来た。
 バランスを失って倒れこむRC――。
「止めだ!」
 Anbarは損傷して内部パーツが露になった脚部にヘビーガトリングを集中攻撃し、RCも必死に立ち上がろうとする。
 行動力の回復した柿原は、高分子レーザー砲で緑色のRCに攻撃を加える。

 そして――RCの腹部が爆発を起こした。恐らく脚部のダメージが腹部に達した模様である。
 やがて口からも黒煙が立ち上り、RCは動きを止めた。
「少し手間取ったな。他の班と合流を急ごう」
 Anbarと柿原は、他班と連絡を取り合い移動を開始した。

●獲物と狩人
 有人RCに執拗に追われるD班は、逃げながらの攻防となった為に他班との距離が開いていた。
 それは正に『狩る者と狩られる者』の様相を呈しており、逃げる方は必死である。
 戦闘をあまり好まない千奈でさえも、多目的誘導弾で積極的な攻勢に転じていた事からも見て取れる。
 白皇院もまた、人命を優先させる為に敢えて攻勢には出なかったのだが、自衛の為に已む無く応戦に参加していた。
「なんとしても守り抜きます」

「究極! ゲシュペンストキィィィィック!」
 レッグドリルを搭載した近接戦闘型リッジウェイを駆るゲシュンペストは、ガトリングの多用でゴーレムの練力消費を促すと同時に牽制を行い、行動点の限界に達した所に必殺の一撃を加えた。
 勿論、これも『騎士の一騎打ち戦法』によるものである。更に命中力を伸ばす事が出来れば、より洗練された戦法へと変貌する可能性も秘めていた。

 A班の安藤と水無月も、無人ゴーレムに手一杯であり、有人機と対峙したリヴァルも又、他方への援護に回れずほぼ一騎打ちの様相を呈していた。
 キャノン砲を牽制として使い、足が止まった瞬間を狙い跳躍! 低空から更に拡散キャノン砲で装甲を焼きにいく有人RC。
「やるな。しかしその程度の火力で、この装甲を抜けるとは思わない事だ」
 着地の瞬間を狙ってスラスターライフルで狙い撃つ。
 有人RCは後方に跳んだ所を更に間合いを詰めてハイディフェンダーで斬り込む!
 両者の勝負は互角に見えたが、受けたダメージはシュテルンが圧倒的少なく、有利な展開であった。

 均衡が破られたのはそれから数十秒後の事であった。無人RCを殲滅させたB班とC班が合流して来たのである。
「すまない、待たせた」
「俺様の分も残してくれてるんだろ?」
 この状況を見た有人機は撤退を開始する。人の心を宿すが故の、迅速で的確な判断であった。

●戦い終わって
 9対2と、戦力バランスが崩れた段階で勝敗は一気に決した。
 全ての戦闘が終わって見れば、損傷が著しい機体があったものの重傷者は出ておらず、また歩兵部隊も全員無事であった。
 千奈と白皇院は戦闘が落ち着いた所で負傷者の治療に当たり親睦を深めた。
(「傭兵としての初戦闘から随分と経ったが、立派になったようで何よりだ」)
 リヴァルは空を見上げ、そんな千奈の成長を陰ながら喜んでくれた。

 ここ北米は今なお激戦真っ只中の地である‥‥。

(END)

016 【Woi】冥界からの贈物

.01 2009 納品物(Catch The Sky ~地球SOS~) comment(0) trackback(0)
本リプレイの公開は、株式会社テラネッツの承認を得ております。
 又、本リプレイの著作権は『水無瀬 要』に帰属しており、知的財産権等は株式会社テラネッツに帰属します。
 本リプレイの一部もしくは全ての転載、複写、翻訳、他サイトへの配信等は禁止させて頂きます。
 (C)Terranetz Co.,Ltd. All rights reserved.

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461)│20歳・♂・グ|
時枝・悠(ga8810)│15歳・♀・ダ|
アリエイル(ga8923)│21歳・♀・ダ|
アセット・アナスタシア(gb0694)│11歳・♀・ダ|
ヨネモトタケシ(gb0843)│25歳・♂・ダ|
抹竹(gb1405)│20歳・♂・ダ|
アレックス(gb3735)│16歳・♂・ド|
サンディ(gb4343)│16歳・♀・フ|

●オープニング本文

●北米の現状
 現在、北米では大規模作戦の準備の為、UPC軍が五大湖地域への集結を開始していた。
 しかし、戦力を集めるという事は、他方で戦力が引き抜かれる場所もある――という事でもある。
 小さな町などに駐留する小規模部隊から戦力を引き抜けば、出没する野良キメラなどへの対応力が低下してしまう。
 実際、作戦が動き始めてから、徐々にではあるが北米大陸の各地からULTに持ち込まれる傭兵への依頼が増え始めていた。
 傭兵がこれに迅速に対応できなれば、小規模な駐留部隊をそれぞれの任地へ戻す必要も生じてくるだろう。
 それは大規模作戦における戦力の減衰へと繋がり兼ねないものである。

<メキシコ・バグア占領地域前線基地>
 UPC北中央軍との来るべき決戦の為、ここメキシコ前線基地でも連日部隊の緊急招集が掛けられ、各方面に移動を開始していた。
 エステル・カートライト(gz0198)も、ようやく修理の終わった『アヌビス』を駆り、『特殊任務』の密命を受けて訓練中であった。
「うぅ‥‥」
 訓練を終えたエステルは、まるで今にも死にそうなくらいに青ざめた表情で、黒き炎の前に姿を現した。
「おいおい、嬢ちゃん大丈夫か?」
 黒き炎はエステルのげっそりした表情に、慌てた様子で容体を訊いて見る。
「あまり良いとは言えないわね‥‥お腹の中の物を全部吐き出したい気分よ」
「強化人間の嬢ちゃんを、そこまでの状態にさせるなんてな。今度の機体は期待出来そうじゃん!」
 黒き炎の言う『凄い機体』とは、勿論『アヌビス』の事である。
「ええ。今度は完璧よ‥‥どれ程の凄腕が来ても当たらない自信はあるわ‥‥うっぷ」
「へー、そいつはすげえ」
 黒き炎は素直に喜ぶ。
「‥‥とりあえず、失礼するわ‥‥もう限界」
 エステルの蒼い顔は、更に蒼さを増していた。
「おう、引き止めちまってすまねえ」
 相変わらず怖い者知らずの黒き炎は、上官であるエステルに手の平をひらひらさせて見送る。
「明日は貴方も出撃してもらうわよ。ゴーレムを1機用意させたわ」
「おいおい‥‥俺様で役に立つのかよ? っていねぇじゃん」
 エステルの姿はもう見えなかった。

<北米西海岸・南部国境付近>
 翌日になって、奇妙な一団がメキシコの国境を超えて西海岸に進軍して来るのを、軍の哨戒部隊が目撃する。
「おい、あれは何だ!?」
『――!?』
 哨戒部隊が目撃した『奇妙な一団』とは、ムカデの形をした多脚装輪型の地上用輸送ワームであった。
「メーデー、メーデー! こちら第三哨戒部隊、ムカデ型のワームと遭遇! 至急――ぐはっ!」
「どうした!? 応答せよ!」
 哨戒部隊との通信は完全に途絶していた。
 急遽緊急事態が発動され、すぐさまワームを駆逐すべく、ナイトフォーゲル(KV)部隊が派遣された。

「あら、輸送ワームと思って油断したのかしら」
 ワーム討伐に派遣されて来たKVは全部で5機。F‐104バイパー4機と、隊長機のR‐01Eイビルアイズが1機という編成であった。
「隊長、敵にアヌビスがいます!」
「確認している。大方鹵獲された機体だろう。ついでに取り戻すぞ」
『はっ!』
「輸送ワームは大した攻撃力は無さそうだ。黒い奴から仕留める!」
 4機は左右に展開してアヌビスを半包囲。
「遊んであげたいけど、急いでるの」
 エステルはそう言うとブースト全開で移動する。
「き、消えた!? ぐわっ!」
「何!? ぐっ!」
「くそ! 何がどうしたんだ!? ぐえっ!」
 次々に為す術も無く蹂躙されるKV達。
 瞬時に3機がコクピットを直撃されて活動を停止する。
「なめるな!」
 隊長機が吼え、ディフェンダーで斬り込む!
 斬ったかに見えたが、それはアヌビスの残像であった。
「くっ!」
 すぐに横一閃するも、そこにはもういない。
「隊‥‥長‥‥」
 気が付いた隊長機が見た光景――それは残り1機のバイパーのコクピットが、アヌビスのルプス・ジガンティクスによって無残にも握り潰された所であった。
 アヌビスの手は、搭乗者達の血糊で赤黒く染め上がっている。
「き、貴様ー! よくも大事な部下達を!」
 逆上した隊長機は、ベアリング弾を装填したミサイルポッドCを撃ち放ち、間髪入れずに斬り込んだ!
 いかに機動力がある機体であっても、無数のベアリング弾を全て回避する事は難しい筈と予想された――
 しかし、アヌビスにはルプス・ジガンティクス以外にも兵装が存在する。
「何‥‥だと」
 巨大円月輪――それは投げて攻撃にも使えると同時に、盾にもなる攻防一体の装備であった。
「終わりよ」
 エステルは目にも留まらぬ速さで駆け抜ける。
「はあ‥‥はあ‥‥余計な時間を取ってしまったわ。先を急ぎましょう‥‥うっぷ」
 仁王立ちするイビルアイズを残し、輸送部隊は国境を越えて進軍を開始。
 そしてムカデワームの通過する振動により――イビルアイズは二つに裂けた‥‥。

●リプレイ本文

●遭遇
<北米・西海岸南部>
 ムカデ型のワーム出現の報は、集結中のUPC北中央軍総司令部にまで届いていた。
 しかし総司令部では、来るべき『シェイド討伐戦』に猫の手も借りたい状況であった為、この件に関しては特殊作戦軍に委任。直ちに傭兵が現地に派遣される次第となった。
「確認された資料によると、敵は高機動型のアヌビス1機だけのようだが、油断せずにいこう」
 須佐 武流(ga1461)が、全機に注意を促す。
 傭兵と言えども集団で行動する以上、まとめ役は必須であり、今回は暫定的に須佐がその任に就く。
「ふむ、バグア仕様のアヌビス‥‥か」
 ヨネモトタケシ(gb0843)は同じアヌビスに乗る者として、バグア仕様のアヌビスについて興味津々な様子だ。
「アヌビスへの執着‥‥ある意味、敬意を感じざるを得ないですね」
 同じくアヌビスに乗る抹竹(gb1405)も、ヨネモトとは違った意味で興味津々と言った所であった。
 彼は前回、須佐と翼を並べて、エステルのアヌビスを空中戦で撃墜した猛者の一人だ。
(「いつもの事だ。相手が誰であれ変わりは無い。ただ、いつものように全力を尽くそう」)
 時枝・悠(ga8810)は、相手が誰であっても『やる事は一つ』という信念の元、愛機ディアブロに語りかける。
「行こうかディアブロ。名に恥じぬ力を示そう」

 エステル・カートライト(gz0198)率いる輸送部隊は、途中何度かUPC軍の哨戒部隊との遭遇戦を迎えたが、それらを圧倒的な力でねじ伏せ、順調に行軍していた。
「拍子抜けだわ」
 エステルは『当初の目的』を果たせず、不機嫌極まりない。
「まあその内現れるさ。俺様達は敵の本陣目指してるんだぜ? 否応無く出てくるさ」
 黒き炎がエステルの仏頂面をモニター越しに見ながら答える。
「だといいわね‥‥」
 ――その時! ENEMYを示す交点がレーダーに映し出された。実践慣れした隙の無い隊列に、エステルは『荷物の届け先』である確信を得る。
「どうやらお出ましのようよ」
「それじゃあ派手に行こうぜ! プレゼントの準備は万端だ。パーティを始めるぜ!」

 傭兵達がエステルの輸送部隊に接近した時、箱ムカデのコンテナが一斉に開く。
「ちっ! 罠かよ」
 アレックス(gb3735)は舌打ちしながらも、すぐさま臨戦態勢を整える。
「‥‥やはり‥‥護衛がアヌビス一機というのは有得ない話でしたね‥‥」
 アリエイル(ga8923)の予想は、悪い方向で見事に的中する。コンテナの中身は全てゴーレムであった。
「ふふ、輸送するのは物資じゃないわよ。実は貴方達の死体だったの」
 エステルはそう言うと、巨大円月輪を先行する須佐目掛けて投げ付けた!
「くっ!」
 紙一重で避けるが、須佐で無ければ直撃していた。明らかに前回のアヌビスとは全ての面で違っている事を身を以って知る。
「皆、気をつけろ! こいつは前に戦った機体以上のようだ」
「‥‥敵の実力が先に分かったのは幸いです‥‥。当初の作戦通り2班に分かれましょう‥‥」
 アリエイルは、愛槍の「グングニル」を構えて箱ムカデ破壊に向かう。勿論ゴーレムとの戦闘は避けられない。
「アヌビスは任せます」
 アセット・アナスタシア(gb0694)もアリエイルに続く。心情的には加勢したいが、足手まといは避けるべきとの判断である。
「了解です。皆さんも気をつけて」
 サンディ(gb4343)は紅の双眸でアリエイル達を見送り、凛とした表情でエステル機に向き直る。
「あなたとの因縁もここまでです」

●死闘1
 全員が配置に付く間も死闘は続いていた――須佐とエステルである。
 エステルは初撃が避けられた瞬間、こいつは『あの時』の機体だと確信していた。
 忘れたくても忘れられない――魂にまで刻み付けられた記憶が脳裏に蘇る。
「貴方が来るのを待っていたわ。殺したい程にね」
 エステルは、わざと通信チャンネルをオープンにして話しかける。元々UPC軍の機体である為、通常通信は可能であった。
「そいつは嬉しい所だが、生憎バグアを口説く気はないな」
 須佐は巨大円月輪の猛攻を避けながら応答する。
「それは残念だわ。上手く生け捕って、生きながら皮を剥いであげたのに!」
 エステルは須佐の放つRA.1.25in.レーザーカノンを避けながら、顔を狂気に歪ませて呟く。

 両者の機体性能はほぼ互角‥‥否、エステルのアヌビスが若干上であったが、須佐はそれを『腕』でカバーしている。
 お互い遠巻きに攻撃を行い、小さな部品が次々と吹き飛び、お互い無数の擦過傷を相手の機体に付けていく。
 ヨネモトとアレックス、サンディ、抹竹は、少し距離を置いて包囲陣を敷き、弾幕による結界を敷いてエステルを牽制する。
 接近戦で割って入る行為は、逆に危険であった為だ。

 両者の均衡が崩れたのは、それから直ぐの事である――須佐のハヤブサの手首が落ちたのだ。
「ちっ! 報告のあった武器とはこいつの事か!?」
 須佐はブースト全開で後方に飛ぶ。
「よし!」
 待っていたチャンス到来に、アレックスが先行して仕掛ける!
 そしてサンディ、ヨネモト、抹竹の3人も一斉に続く。この辺りの連携は実に見事である。
 アレックスは、今回得意の槍を双剣に持ち替えて出撃していた。槍だと小回りの利く相手には不利と判断したからだ。
「いけ!」
 アレックスの駆る機体『フェニックス』は、鳳凰の羽ばたきを以って黒きジャッカルに挑みかかる!
 アヌビスは一刀を例の武器で受け流し、更にもう一刀をルプス・ジガンティクスで受け止め、空中に浮遊する巨大円月輪で攻撃を加える。
 巨大円月輪は空中に浮遊しており、手に持つ必要性がないので、両手が無くても使える。
「させません!」
 サンディが巨大円月輪を機槍「ドミネイター」で弾く!
 そしてヨネモトと抹竹が左右に回り込み、動きの止まったアヌビスに刀で斬り付けた。
 アヌビスはすぐさま手を離し、くるりと横に回転――武器を横に一閃して二人の攻撃を全て弾き返す。
「やるわね」
 エステルは、もう傭兵達を過小評価していない。逆にどんな手を使ってでも『倒すべき敵』である事を、今までの戦闘で学んでいた。
 後方に飛んだ所を、今度は須佐が待ち構えており、ソードウィングで斬り付ける。
 アヌビスは残像を残しながら素早く避けたが、左後ろの肩口に軽微な傷を負う。
「チッ、思ったよりやる! だがッ!」
「弐の太刀。のるかそるか!」
 彼らの連携はまだ終わらない。
 エステルは更に避ける。

 アヌビスの持つ例の武器‥‥それは『日本刀の形状をしたプロライドソード』である。
 プロトライド合金はバグアの特殊合金の一つで、ゴーレムの持つ巨大剣にも使用されている。
 そのプロトライドに『焼き入れ』、『焼き戻し』という日本独自の熱処理を加えたその太刀は、メトロニウム合金をも一刀両断出来る業物である。
 だが1対5の戦闘である‥‥エステルに休む暇は与えてくれない。再びアレックス達が波状攻撃を加えて来る。
 それらを全て避け切るアヌビスであったが、外見の華麗さと中の状況は正に天国と地獄であった。
「ぐふ! ‥‥‥」
 既にエステルは限界点を当に超えており、コクピット内は酷い状況である‥‥。
 平時であれば顔面蒼白の状態なのだが、今は戦時である。彼女の顔は今なお紅潮し、恍惚とした表情で死との境界を垣間見る事を愉しんでいた。
「ふふ‥‥やれる‥‥殺れるわ!」
 かっと目を開いたエステルは、更に機体限界に挑む機動力で傭兵達に牙を剥いた。

●死闘2
 一方、箱ムカデ攻撃に向かったアリエイル、アセット、時枝の3人も、黒き炎と5機のゴーレムに行く手を阻まれ苦戦していた。
 黒き炎の駆るエースゴーレム以外は全て無人機であり、黒き炎の操縦練度が低い事もあってどうにか3人の連携で凌げていたが、停車していた箱ムカデが各個に分離し、クリプトンレーザーで応戦してきたのだ。
「こっちは3人で助かったと言うのが本音だが‥‥、俺様も死にたくないんでな。数で圧倒させて貰うぜ」
 黒き炎はそう独り言を漏らすと、持っていた拡散フェザー砲を撃ち放つ。
 ヘルメットワームの武装を手に持てる様にカスタマイズしており、威力は落ちるが命中力は高く、素人向きの武装としては実に的を得ていた。
「きゃ!」
 アセットのディアブロが被弾する。彼女の機体回避能力では直撃を避けるのが精一杯であった。
「大丈夫!?」
 すぐにアリエイルが駆け寄り、フォローに回る。
「ありがとう」
 アセットは礼を述べると、黒き炎にR-P1マシンガンでお返しをする。

「まずは1機目!」
 ブーストで接近して、眼前のゴーレムの頭をビームコーティングアクスで刎ね飛ばした時枝は、次の獲物を探してオッドアイの瞳をレーダーに移す。この方が分散しているので、目視よりも素早い状況判断が可能なのだ。
 時枝の機体が3人の中では抜きん出た性能であった事から、自然と時枝が前衛に立ち、アセットが後衛から援護、アリエイルはアセットを補佐しつつ周囲の戦況に合わせて戦う――といった連携が組み上がっていた。
「中々やるじゃねえか‥‥」
 そう呟いた黒き炎は、2射目を撃ち放った。

 無数のビームが飛び交う中、3人は機体を焦がしながらも息の合った連携で次々と箱ムカデを攻略していく。
 彼女たちの当初の目的が『ムカデ型ワームの殲滅』である事から、ゴーレムは防御で凌ぎ、先にワームを順番に仕留めて行く事にした。
 全員の銃器で足を止め、威力の高い主兵装による連続波状攻撃で仕留める作戦は、非常に有効であった。
 この連携作戦によって7機いた箱ムカデは既に4機を失い、残りは3機。
「図体は大きいし見かけ以上に素早いけど、動きを止められたらおしまいよね」
 ゴーレムの攻撃をハイ・ディフェンダーで受け流し、箱ムカデに深々と刺さった機杭「エグツ・タルディ」の杭を抜いてアセットは呟く。
「確かに」

「おい嬢ちゃん、こっちは形勢不利だ! そっちはどうだ!?」
 黒き炎は手駒を失い少々狼狽気味だ。
「‥‥あら、だらしないわね‥‥くっ‥‥この! ‥‥‥いいわ、撤退を許可するから適当に逃げて頂戴」
「わりぃ、先に失礼するぜ」
 向こうも大変そうだと察した黒き炎は、彼にしては最大限の丁寧語で礼を述べ、煙幕を張って脱出コースに入った。
「何? 逃げるの!?」 
 アセットが黒き炎のゴーレムに一矢報いようと迫ったが、護衛のゴーレムに阻まれる。
「ちょっと、どきなさいよ!」
 興奮したアセットは、パニッシュメント・フォースを発動! エグツ・タルディでゴーレムの胸元を狙う!
 だがゴーレムも特殊能力を発動させ、回避能力を一気に高めて避ける。
「あ!――」
 危ないと思った瞬間、ゴーレムが吹き飛んだ!
「気持ちは分かるけど‥‥どうか冷静に‥‥」
 再びアリエイルが助けに入った。覚醒時の天使を思わせるその風貌そのままに、彼女の持つ槍は仲間を護る為に存在していた。
「ごめん、少し頭を冷やすね」
 アセットは高ぶった気持ちを鎮める為大きく深呼吸‥‥そして『ハッ!』と気合を入れる。
「どう‥‥落ち着いた‥‥?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
 彼女が冷静さを取り戻す間、側でゴーレムを退け続けていたアリエイルに深々と礼をしたアセットは、再び箱ムカデ攻撃に加わるのだった。

●分身対伝家の宝刀
 舞台は再び対アヌビス班に戻る。
 致命傷こそ無いものの、エステルのアヌビスも無傷とは言えない様相で、無数の小さな傷と軽微な損傷を負っていた。
 サンディの提唱したオーバーブーストによる連携波状攻撃も功を奏していた。
「そろそろ機体強度の限界点を越えそうね‥‥この機体を以ってしても倒せないなんて‥‥悔しいわ」
 彼女のアヌビスは無茶なチューニングを行った為、機体限界強度を著しく低下させていた。
 既に機体のあちこちから悲鳴のような軋み音が聞こえて来る。

「向こうさんの動きが急に鈍ってきたみたいですね」
 ヨネモトが双剣で敵アヌビスを斬り付けながら問いかける。
「そろそろあちらも限界と見たが」
 手首を落とされた須佐のハヤブサも前回とは違い、損傷が著しい。
「あいつの性格からすると、タダでは帰らないかもな」
 とアレックス。
「味方を平気で特攻させる相手です。気を付けましょう」
 サンディもエステル戦で学んだ経験から注意を促す。
「来たぞ!」
 言ったそばからエステルが仕掛けて来る!
 彼女の狙いは現状で有効打の全く通らない須佐やヨネモト、抹竹ではない。それは――
「くそ!」
「きゃあ!」
 アレックスとサンディの2機である。
『――!』
 それは正に電光石火! アヌビスの隠し玉とも言える特殊能力『ダミーワーム』の発動により、一瞬で2機のフェニックスは深手を負う。
「アヌビスが8体‥‥だと!?」
 アレックスが驚くのも無理はない。分身したアヌビスが一斉に日本刀(仮称)による居合い抜きで襲い掛かって来たのだ。
「すまねえ、今ので深手を負っちまった。撤退するぜ」
「すいません、私も退きます。皆さんお気をつけて」
 アレックスとサンディ、2機のフェニックスが戦線より離脱を開始。
「逃がさないわ」
 エステルが追撃を加えるが、ヨネモトが割って入る。
「‥‥我々に付き合って頂きますよ。バグアのアヌビス乗り、エステル・カートライトさん?」
「くっ」
 双剣に軽く撫でられ、エステルは引き下がる。
「機体や己の力量を信じる事は大事ですが‥‥過ぎれば大事に障りますよ?」

「面白い物を見せて貰ったが、良く見りゃレーダーに映ってないぜ」
 と抹竹。
 ダミーワームは実体を伴わない――タネは明かされた。
「借りは返しておこう」
 須佐も温存していた試作剣「雪村」を抜刀! 連続で斬り付ける!
 初撃は巨大円月輪で受け止めたが、二撃目は思う様に動けず防ぎ切れなかった。
 アヌビスの左腕がポトリと落ちる――。
「ここまでのようね‥‥」
 エステルのアヌビスは機体各部からも激しいスパークが迸り、これ以上の戦闘は無理と判断。
 重力慣性で空中高く舞い上がると、そのまま虚空の彼方に飛んで行った。

●パーティの終焉
 箱ムカデ班も黒き炎が逃亡した事によって戦闘は随分と楽になっていた。
「賢いAIを搭載していても、烏合の衆では私達には勝てない」
 時枝はそう言い放つと、ゴーレムに止めを刺す。
「勝利をもたらす槍‥‥グングニル‥‥ブーストアップ!!」
 アリエイルもこの機を逃さない。残った箱ムカデの動力部に渾身の一撃を加える。
「全員無事で帰るんだ‥‥もちろん私も!」
 アセットも奮戦する。

 その後エステルを退けた須佐達が合流した事で、勝敗は一気に決した。
 移動力を失った箱ムカデも全て動力を停止。残ったゴーレムも全機破壊された。
 撤退機を出しながらも重体者はおらず、作戦は成功の内に終結した。

(END)
 HOME 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。